判決東京地方裁判所 平成21年10月29日判決
イレウス(腸閉塞)とは、何らかの原因により腸の中で内容物が詰まり、肛門側に移動できなくなった状態をいいます。主な症状は、腹痛、便秘、嘔吐、お腹がはるなどが見られます。
イレウスは、機械的イレウスと機能的イレウスの2種類に分類され、また機械的イレウスは、血行障害のある絞扼性(複雑性)イレウスと単純性イレウスとに分類されます。
絞扼性イレウスは、腸管が癒着したり、腸管に栄養を送る血管が詰まったりして血行障害を引き起こすため、緊急手術が必要です。お腹の一部が持続的に痛むのが特徴で、造影CT検査や腹部エコー検査などにより確定診断されます。絞扼性イレウスは、急速に症状が悪化して予後不良となることもあるため、迅速な診断と外科的処置が重要となります。
以下では、絞扼性イレウスにより死亡した患者について、医師が適切な検査を実施しなかった過失が認められて約220万円の賠償を命じた事件を紹介します。
女性Aは、午前2時ころ腹痛を訴えて救急車で被告病院に搬送され、医師に対して腹痛があり3日間便が出ていないと申告をして点滴投与を受けたところ、腹痛が改善したため帰宅しました。
しかし、午前5時45分ころ腹痛が再発し、再び救急車で被告病院に搬送されて点滴などの処置を受け、通常外来診察開始時間まで病棟で過ごしていましたが、午前9時50分ころ女性Aは看護師同伴でトイレに行った際に意識を消失してショック状態に陥ったため救急外来に搬送され入院することとなりました。
入院後、腹部レントゲン検査、胸部レントゲン検査、腹部エコー検査が行われましたがレントゲン写真からはイレウスを疑う所見は認められず、腹水が認められました。さらに、血液検査と心電図が行われ、血液検査では白血球数が上昇していました。
午前11時55分ころ、医師が女性Aを診察した際には強い下腹部痛を訴えていました。
午後1時50分ころから意識レベルが低下し、無呼吸状態になったことから人工呼吸器を装着して心臓マッサージなどが施されましたが、女性Aの呼吸は回復することなく死亡が確認されました。 解剖が行われた結果、直接の死因は絞扼性イレウスであると記載されていました。
原告らは、絞扼性イレウスであることを疑い診察や検査をすべき義務を怠った過失があるなどとして被告病院に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、女性Aの死因は診療中の症状から照らし合わせても、解剖記録に記載のとおり絞扼性イレウスであることを認めました。
その上で、①女性Aは一貫して下腹部痛を訴えていたこと②搬送時に3日間便が出ていないと聞いていたこと③入院後、腹部膨満が見られ下腹部に軽度の圧痛があったこと④白血球数が上昇していたこと⑤腹水がみられていたことなどの症状から、絞扼性イレウスを疑わせるに十分なものであり、午前11時55分には医師が自ら女性Aを診察して、強い下腹部痛の訴えを聞いているのだから、遅くてもこの時点で女性Aが絞扼性イレウスに罹患していることを疑い、その鑑別をするために腹部エコーや造影CT検査などの必要な検査を実施すべき義務があったと判断しました。
しかし、午前11時55分の時点で検査を行い手術が開始されていたとしても、検査の時間や手術を開始するまでの準備に一定の時間を要することを考慮すると、女性Aの死亡を回避できた可能性は認められないとしましたが、手術に立ち会う医師を早急に確保することができたならば、ショック状態に陥った午後1時50分より前に手術を開始し女性Aを救急し得た相当程度の可能性があったと判断しました。
結果裁判所は、絞扼性イレウスを疑い必要な検査を実施しなかった過失と、死亡時点で女性Aが生存していた相当程度の可能性を認めて被告病院に対して約220万円の賠償を命じました。
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