判決名古屋地方裁判所 平成23年1月14日判決
急性腹症とは、急激に発症する激しい腹痛で、緊急手術など迅速な対応が必要なお腹の病気の総称です。急性腹症には様々な病気が含まれています。
その中でも頻度が高いと言われている一つでもある消化管穿孔は、何らかの原因で消化管に穴があき、食べ物や消化液がお腹の中に漏れることにより炎症を起こす病気です。
症状は、突然激しい腹痛、吐き気、食欲不振などがみられ、腹部を触れると硬く感じられます。診断には、胸部と腹部のX線検査およびCT検査が行われ、腹腔内の遊離ガス(フリーエアー)が認められた場合に確定します。
消化管穿孔は腹膜炎に進行するおそれがあり、腹膜炎による死亡率は治療が遅れるほど急激に上昇するため早急な手術が必要となります。
以下では、消化管穿孔による腹膜炎により死亡した患者について、医師が適切な検査を怠った過失が認められて約1500万円の賠償を命じた事件を紹介します。
過去の脳出血が原因で、立位困難、発語困難であった男性Aは、自宅で腹痛を訴えたため救急車で被告病院救急外来に搬送されました。医師により、採血および腹部単純X線撮影として臥位の写真、頭部CT検査などを行いましたが、各種検査の結果異常がなかったことから医師は点滴を投与したうえで消化器科を受診するよう勧め、自宅に戻ることになりました。
しかし、帰宅しようとしたものの男性Aの家族らが男性Aの状態が苦しそうであったため被告病院の救急外来に再度出向き、朝まで待機して消化器内科を受診する予定となりました。
翌朝、被告病院消化器内科の診察を受けたところ、男性Aの腹部が膨隆し、硬くなっている疑いがあったことから、腹部から骨盤にかけて単純CT検査が実施されました。結果、腹水と遊離ガスが認められたため、医師は消化管穿孔と診断しました。
同日、男性Aは緊急入院となりましたが、入院時点で全身状態が既に不良であったため、開腹手術の適応はないと判断され、抗菌薬などによる保存的治療が行われましたが、翌日男性Aは穿孔性腹膜炎で死亡しました。
原告らは、消化管穿孔および穿孔性腹膜炎の可能性を考えて腹部CTまたは左側臥位での腹部X線撮影を行わなかった過失があるとして、被告病院に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、男性Aは発語困難により腹痛の状況を聴取することは不能であるため、強い腹痛が発生している可能性は否定できず、嘔吐している疑いおよび腹部が緊張している疑いもあるといえることから、医師は男性Aが救急車で搬送されてきた際に、消化管穿孔および穿孔性腹膜炎の可能性をも念頭に置いて鑑別を進めるべきであったことを認めました。
その上で、男性Aが搬送されてきた際に医師が行った検診や検査結果のみでは、腹部に関する何らかの急性な病気に罹患している可能性を排除することは出来ず、急性腹症の診断に有用である胸部CT検査を外来診察が終了するまでの間に行うべき注意義務があり、医師はこれを怠ったと判断しました。
また、医師が外来診察の終了までに胸部CT検査を行っていれば、男性Aが消化管穿孔を発症していると診断できた可能性が高く、その時点で緊急手術が行われていれば救命できた可能性が高いと判断しました。
結果裁判所は、消化管穿孔および穿孔性腹膜炎の可能性を考えて胸部CT検査を行うべき義務を怠ったことを認めて、被告病院に対して約1500万円の賠償を命じました。
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