結核性髄膜炎に罹患していた小児に重度の脳障害の後遺症が残存したことについて、医師が適切な検査を怠った過失が認められた事件

判決福岡地方裁判所 平成17年8月9日判決 福岡高等裁判所 平成20年4月22日判決

結核性髄膜炎とは、結核菌の感染により脳や脊髄を保護している膜が炎症を起こす病気です。乳幼児に多くみられ、結核性髄膜炎に罹患すると頭痛、嘔吐、項部硬直が現れ、進行すると痙攣、意識障害などを呈します。

また、結核性髄膜炎は脳神経障害を伴うことがあり、眼球の動きに影響を与える外転神経や動眼神経に支障を生じることが多いとされています。

結核性髄膜炎の検査方法は、CT検査やMRI検査のほかに背中に針を刺して脳脊髄液を採取し、脳脊髄液の中に結核菌がいないかを調べる検査が重要となります。

結核性髄膜炎は重篤化した場合、高い確率で失明、難聴、水頭症などの後遺症を残すことが多く、速やかに治療が行われなかった場合には死亡率が高いといわれています。そのため、発症が確認されたら早期に治療を始めることが大切です。

以下では、結核性髄膜炎に罹患していた小児に重度の後遺症が残存したことについて、医師が診断のために適切な検査を怠った過失が認められて約3100万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

小児Aは、3月17日ころから発熱および吐き気を訴えたため、同月18日から近所の病院や、被告B病院の救急センターを受診し薬の処方を受けていましたが、症状が改善されなかったため、同月27日に被告B病院の小児科を受診してC医師の診察を受けました。

小児Aは39度4分の熱が10日間以上続いており、嘔吐が1日に数回あり、便が1週間以上出ておらず、倦怠感、食欲不振、顔色不良などがみられました。C医師は小児Aの病名を、嘔吐症および電解質異常であると診断して、治療のために即日入院することとなりました。

入院後も小児Aの発熱は続き、3月30日には痙攣が出現して意識障害に陥ったため、脳のCT検査を行ったところ、出血や腫瘤はなく、脳浮腫ではないと診断されました。

B医師は、小児Aの脳の中で重大なことが進行していることに間違いないと思い、他病院の医師へ小児Aの症状について意見を求めたところ、D病院の医師の方が適切なアドバイザーであるとの示唆を受けたことから、4月2日に小児AをD病院へ転院させることの約束を取り付け、B医師は3月31日の午前の勤務終了後に退職し、後任の医師は4月1日から診察にあたりました。

4月2日、後任の医師によりMRI検査が行われた結果、水頭症、脳室拡大が認められたため脳髄膜炎症の疑いありと診断し、小児Aは意識不明のままD病院へ転院されました。

D病院に転院後、水頭症に対する手術および髄液検査を行ったところ、髄液から結核菌が証明され、小児Aは結核性髄膜炎と診断されました。その後、治療が開始されましたが小児Aには重度の脳障害などの後遺症が残存しました。

原告らは、結核性髄膜炎を疑い検査する義務を怠り、適切な治療を行わなかった過失があるなどとして、被告B病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

【第一審】

裁判所は、小児Aに10日以上続く原因不明の発熱、嘔吐、倦怠感、食欲不振などの症状がみられたうえに、脳の神経の異常を疑わせる徴候が認められ、C医師も小児Aの脳の中で重大なことが進行していると考慮していたのであるから、髄膜炎の可能性を疑って髄液検査などの必要な検査をすべきであったことを認めました。

そして、遅くとも3月30日に髄液検査を行っていれば結核性髄膜炎の診断はつき、これに対する治療を開始することによって小児Aに残存した重篤な後遺症を回避することが出来たと判断しました。

結果裁判所は、髄膜炎の診断に必要な検査を行わなかった過失を認めて被告B病院に対して約1億6000万円の賠償を命じました。

【控訴審】

被告B病院は、結核性髄膜炎は稀にしか見られないうえ発症診断の難しい疾患であり、小児Aの臨床症状から髄膜炎に結びつくには極めて乏しく、家族に結核に罹患したものもいなかったことや、3月30日に実施されたCT検査においても異常は認められなかったことから、髄液検査を行うことが法的義務とまではいうことが出来ないと主張をして控訴しました。

しかし裁判所は、3月30日に小児Aは痙攣が出現して意識障害に陥っており、C医師も小児Aの脳内に重大な事態が起こっていると確信していることから、同月30日には結核性髄膜炎を含めた脳神経系疾患の可能性を考慮して、髄液検査を行うべきであったと判断しました。

また、30日に髄液検査を行い、翌31日には画像診断を得て水頭症の存在を認めて直ちにこれに対する治療を行っていれば、脳の損傷を最小限に食い止められた可能性は相当程度あると判断しましたが、結核菌の病巣拡大を阻止することは困難であるため、後遺障害の軽減の程度を的確に判断することは至難であるとしました。

結果裁判所は、結核性髄膜炎の診断のために必要な検査を怠った過失と、後遺障害が軽減された可能性が相当程度あることを認めて被告B病院に対して約3100万円の賠償を命じました。

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