出産後に羊水塞栓症からDICに陥った患者について、輸血の手配が30分遅れた病院側の 措置に関して適切な医療行為を受ける期待権を侵害した過失が認められた事件

判決大阪地方裁判所 平成23年7月25日判決

DIC(播種性血管内凝固症候群)とは、小さな血栓が体内のいたるところで発生して、細い血管を詰まらせる病気です。血栓が肝臓や腎臓に詰まると、腎不全や肝不全を起こすおそれがあります。

また、妊娠中および分娩時の疾患が原因となって起こるDICを、産科DICといいます。分娩時産道破裂傷、常位胎盤早期剥離、羊水塞栓症などの疾患を要因として起こることが多く、急性で突発的に発症し、急激に進行することが特徴です。

その中でも羊水塞栓症を疾患として起こるDICは、サラサラした非凝固性出血が大量に性器から出現するため、早めの輸血を行い凝固因子を補充することが治療の決め手となります。

以下では、出産後にDICに陥り死亡した患者について、適切な医療行為を受ける期待権を侵害した過失が認められて約60万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、6月6日16時29分に被告病院において男児を出産しました。しかし、女性Aは出産直後から出血が継続し18時23分にはサラサラした非凝固性出血を認めたため、医師がDICの発症を強く疑い、治療のためにすぐに輸血が必要と判断して、看護師に血液センターへの血液搬送依頼を指示しました。

ところが看護師は血液センターの電話番号の確認に手間取ったため、19時4分に連絡が付きました。19時20分に血液が被告病院に到着し、20時に女性Aに対して輸血を開始しました。

21時には総出血量が3435mlになりましたが、医師は女性Aの血液検査の結果も踏まえて、一貫して「弛緩出血とDICの疑い」と診断をして、追加で輸血を行いました。それでも女性Aの全身状態が改善しなかったため、医師はより多くの輸血と集中治療が必要であると考えて女性Aを高次医療機関へ搬送することを決定しました。

その後、21時45分には女性Aの心拍数が低下し、21時55分に救急車が被告病院に到着したころには、女性Aの瞳孔は拡大し、応答はなく、自発呼吸も減弱していました。

高次医療機関に搬送後、大量の輸液および輸血を行い、子宮摘出術が行われましたが、同月19日に女性Aは羊水塞栓によるDICを制御できず、出血性ショックに陥り、多臓器不全を併発して死亡しました。

原告らは、輸血の準備や実施に遅れがあり、止血のために適切な処置を怠った過失があるなどとして被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、遅くても19時30分ころの時点で女性Aに対して輸血を開始するべきであり、また血液(FFPおよび人全血)が被告病院に到着した際に、FFPは解凍する必要があるが、受領後すぐに投与が出来る人全血の輸血を先に開始するべきであったことを認めました。

その上で、医師が18時29分に血液搬送依頼を看護師に指示したにもかかわらず、看護師が血液センターの電話番号の確認に手間取り、連絡が付いたのが19時45分であったことから、少なくとも看護師の過誤に30分程度の遅れが生じ、また血液が到着した時点で先に人全血を開始しなかった点において注意義務違反があったと判断しました。

なお、本件出産時の医療水準に基づいて輸液ないし輸血を適切に行っていたとしても女性Aを救命できた可能性は非常に低く、死亡時点で生存していた可能性があると認めることが出来ないと判断しましたが、被告病院で可能な限り速やかに輸血されるという治療行為を受けることを期待できたのにもかかわらず、看護師の過失により期待権を侵害されたと認めるのが相当であると判断しました。

結果裁判所は、期待権を侵害したとして被告病院に対して約60万円の賠償を命じました。

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