判決東京地方裁判所 平成17年7月25日判決
急性脳症とは、ウイルス感染症の感染をきっかけに急激に脳に浮腫が生じる疾患で、特に乳幼児に多く発症するといわれています。急性脳症は、感染症による発熱を伴って、痙攣、意識障害などが急激に起こります。
急性脳症に対して確立された治療法はまだありませんが、痙攣が続くときは速やかに痙攣を止める薬剤を投与、人工呼吸管理、脳の浮腫みを取る薬剤を投与するなど全身状態を安定させる必要があります。
急性脳症を発症しても通常亡くなることはありませんが、多くの場合で後遺症が残存します。
以下では、小児気管支喘息の患者に対して過量の投薬を行ったことにより、急性脳症が発症し重度の後遺症が残存した過失が認められて350万円の賠償を命じた事件を紹介します。
小児Aは、38℃の熱を出したため被告B病院を受診したところ、呼気性の喘息が認められたため、吸引療法を行いテオドールドライシロップ(テオフィリン徐放性剤)などの薬剤が処方されました。
しかし、小児Aは発熱および咳が続いたため、翌日も被告B病院を受診しました。医師は前日と同様に吸引療法を行いましたが、呼気性の喘鳴は改善しなかったためネオフィリン2.5mlを点滴静注しました。
ところが点滴終了直後、突然小児Aに全身性強直性間代性痙攣が出現し、痙攣の予防目的で使用される座薬を挿入しましたが、痙攣は治まりませんでした。そこで医師は、小児AをC病院に転送するために救急車を要請しました。
救急車が被告B病院に到着した際の小児Aの状態は、顔面蒼白でチアノーゼが見られ体温は40℃あったため、酸素投与を受けながらC病院に転送されました。C病院に到着後、小児Aは熱性痙攣の重積状態、脳炎または急性脳症が疑われたため治療が行われました。
しかし、小児Aは急性脳症の後遺症として四肢体幹機能障害、精神発達遅滞、てんかん発作の後遺症が残存しました。
原告らは、不適切な投薬を受けたため急性脳症が発症し後遺症が残ったなどと主張をして、被告病院に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、医師が小児Aに投与したネオフィリンの用量について、基準量を超えていることを認めました。
また、①ネオフィリンが投与された前日に小児Aはテオドールドライシロップを処方されており、テオドールドライシロップの内服が4時間以内の場合、ネオフィリンの投与量は半分を目安とすると添付文書に記載されていることから、慎重にネオフィリンを投与すべきであったこと②ネオフィリンの添付文書に重大な副作用として、ウイルス感染(上気道炎)を伴う発熱時にはテオフィリン血中濃度が上昇することがあるため慎重に投与することと記載があり、小児Aは上気道炎を発症して高熱を出していたことが認められるため、慎重に対処すべきであったことを指摘しました。
それにもかかわらず、被告B病院の医師は投与量において①②について留意することなく、基準量を上回るネオフィリンを小児Aに投与したのであるから、これらの点において過失があると判断しました。
また、ネオフィリンの過量投与と急性脳症発症の因果関係については認めましたが、後遺症の残存については相当程度の可能性があると認めました。
結果裁判所は、投薬について添付文書に記載の留意を怠り過剰投与した過失を認めて、被告病院に対して350万円の賠償を命じました。
医療過誤のご相談受付
まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。
※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。