心房細動の患者が電気的除細動を受けた直後に脳梗塞を発症して重度の後遺症が残存したことについて、医師が術後に抗擬固療法を十分に行わなかった過失が認められた事件

判決岐阜地方裁判所 平成21年6月18日判決

心房細動とは、心臓の中にある血液を出し入れする部屋のひとつである心房が細かく震えて、血液をうまく全身に送り出せなくなる不整脈の一種です。心房細動が起こると、動悸、息切れ、倦怠感などの症状が現れます。

また、血液を全身に送り出せなくなると心不全を発症したり、血栓が出来て脳梗塞を発症するおそれがあります。

治療は、薬物療法と非薬物療法があり症状によって医師が治療法を選択します。

その中でも電気的除細動とは、電気ショックを与えて心臓を元のリズムに戻す治療法です。除細動後は血栓が形成され塞栓症を起こす危険があるため、施術前後に血液を固まらせないようにする抗擬固療法を用いて血栓を予防することが重要です。

以下では、心房細動の患者に対して電気的除細動を施行した後の抗擬固療法が不十分であった過失が認められて、約7800万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

男性Aは、動悸および呼吸困難を感じたため、被告B病院を受診したところ心房細動と診断されたため即日入院することになりました。

入院後、男性Aに抗擬固薬ヘパリンおよび抗擬固薬ワーファリンなどが投与されました。そして医師は男性Aに対して、脈拍を正常に戻すため電気的除細動を受けることを勧め男性Aはそれに同意しました。

後日、電気的除細動の術前検査として経食道心エコーを行って血栓が認められないことを確認したうえで、電気的除細動の施術が行われました。術後3日目に男性Aは退院しました。

しかし退院した翌日、男性Aは右上肢が麻痺し立ち上がることが出来ず、妻の呼びかけに対して反応しなかったため救急車で被告B病院に搬送されました。

医師の診察により、脳梗塞の疑いがあり、右半身不全麻痺、失語と診断されましたが、血栓溶解療法は施行されませんでした。その後リハビリ治療が開始されましたが、男性Aは右半身不随、言語障害などの後遺症が残存しました。

原告らは、医師の手術の選択または術後管理に過失があるなどとして、被告B病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、電気的除細動後にINR(血液が凝固するのにかかる時間に基づく指標)が1.6より低い場合は塞栓症を起こす可能性が高いため、電気除細動後はワーファリンによる抗擬固療法を4週間継続することが推奨されていることを指摘しました。

その上で、男性Aの退院時のINRは1.2であり塞栓症が発症する可能性の高いINR1.6を相当下回っていたことから、男性Aの脳塞栓症の発症リスクが高まっていたことが認められるため、推奨レベルである1.6以上になるまで抗擬固療法を中止することなく入院を継続するべきであったと判断しました。

しかし、被告B病院の医師は電気的除細動の3日後に男性Aを退院させ抗擬固療法を中止したのであるから、電気的除細動後に抗擬固療法を十分に行わなかった過失があると判断しました。

また、被告B病院の抗擬固療法が不十分であった過失と脳梗塞発症との間に因果関係があることを認めました。

結果裁判所は、被告B病院に対して約7800万円の賠償を命じました。

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