判決東京地方裁判所 平成23年3月23日判決
喉頭癌とは、のどぼとけの位置にある気管に発症する癌です。特に60歳以上の男性に発生しやすく、主な原因は喫煙と飲酒といわれています。症状としては、のどの違和感、声のかすれ(嗄声)、首のリンパ節に腫れやしこりなどが現れます。
喉頭癌が疑われた場合は、喉頭鏡検査や内視鏡検査を行い、異常が認められた場合は組織を採取(生検)して、癌の診断を行います。治療方法は、癌の進行によって異なりますが早期の場合は発声機能を残すため放射線治療や化学治療により根治を目指します。
しかし、発見時に既に進行していたり、治療後に癌が再発すると、咽頭を全て取り除く手術(喉頭全摘出術)が必要とされ声を失う場合があります。
以下では、医師が患者に対して喉頭癌を疑い速やかに生検や治療を行わなかった過失が認められて220万円の賠償を命じた事件を紹介します。
男性Aは、平成14年7月ころから喉に違和感を覚え、声がかすれるようになったことから、B病院を受診し慢性喉頭炎であると診断されました。
平成15年3月から6月までの間、男性Aは月に1回程度、被告C病院を外来受診し、主治医であるD医師による診察を受けたところ、嗄声および右仮声帯の腫脹が確認されたため経過観察となりました。
その後、主治医であったD医師の所属がE病院へ変更されたことから、男性AはE病院に通院し引き続き経過観察を行うことになりました。
男性Aの嗄声は続き増強していたため、E病院にて顕微鏡下咽頭腫瘍摘出術などを受けた結果、扁平上皮癌で、咽頭癌T2期と診断されました。その後、放射線治療が行われ病態が良くなったことから男性Aは退院しました。
しかし翌年の11月、F病院を受診したところリンパ節への咽頭癌の転移が確認されたため、男性Aは喉頭全摘手術を受けることになり音声機能を喪失しました。
原告らは、被告C病院の初診時にD医師が速やかに生検を実施し咽頭癌の確定を下し、放射線治療を開始すべき義務を怠ったとして、被告C病院に対して損害賠償を請求しました。
D医師は初診時に生検を行わなかったことについて、男性Aに対して初診の際から右仮声帯の腫脹に対して生検を行う必要がある旨の説明をしていたが、男性Aは「検査を受けたくない」や「忙しいので入院できない」と回答し拒絶したからであると主張しましたが、裁判所は、外来カルテに生検に同意しなかったことなどに関する記載は全くされておらず、客観的な証拠が無いことを指摘しました。
また、D医師は男性Aに対して癌という言葉を用いず、悪いものである可能性もないわけでもないという前提で生検の必要性について説明したと証言したことについて、当時、D医師において男性Aの症状からすると生命の危険のある喉頭癌である可能性があるため生検の必要性があると認識していたことが認められるため、D医師は男性Aに対して、生命に危険があることを説明したうえで生検の必要性を説明すべきであり、仮にD医師が主張するように男性Aに説明が行われていたとしても、その説明は不十分であったと判断しました。
しかし、D医師が生検を行い、喉頭癌と診断をして速やかに放射線治療を開始していたとしても、男性Aの嗄声は平成14年7月から長期間にわたり持続していたことから、被告C病院の初診時の時点で咽頭癌が浸潤していた可能性があるため、喉頭癌の再発および転移を避けて、喉頭全摘出を回避することが出来たと認めることは出来ないと判断しました。
結果裁判所は、喉頭癌を疑い生検および治療を実施すべき義務を怠ったとして、被告C病院に対して220万円の賠償を命じました。
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