判決大阪地方裁判所 平成22年9月29日判決
肝硬変とは、肝障害や肝炎(A型・B型・C型など)が進行して肝臓が硬くなり、肝臓の本来の働きが果たせなくなる病気です。
初期の肝硬変は基本的に無症状ですが、症状が進行すると腹水、黄疸、浮腫などの肝機能低下による合併症が認められます。肝硬変になると、肝臓を元の健康な状態に戻すことは非常に難しいとされているため、早期のうちに病気の進行を防ぐ必要があります。
主な治療は、合併症の治療や生活習慣の改善を行います。また、末期状態で従来の治療法では余命が1年以内と予想されると、健康な人から肝臓の一部を取り出し臓器を受け取る肝移植が適応となります。
以下では、肝移植が適応であった肝硬変の患者に対して、医師が肝移植について説明すべき義務を怠った過失が認められて約480万円の賠償を命じた事件を紹介します。
女性Aは、平成16年12月に被告病院に搬送され、肝硬変、腹水貯留、高アンモニア血症および肝性脳症などと診断されたため被告病院に入院しB医師が担当医となりました。
平成17年2月に女性Aは退院しましたが、その後も月2回程度、肝硬変などの治療のために被告病院に通院していました。
その際にB医師からは女性Aやその家族に対し、女性Aの肝硬変の治療法として、生体肝移植について言及したことはなく、女性Aやその家族から生体肝移植について質問や要望を出されたことはありませんでした。
平成19年9月、女性Aは肝硬変が悪化したため被告病院に再び入院し、担当医であったB医師は他病院へ転勤していたことからC医師が担当医となりました。
C医師は女性Aやその家族らに対し、生体肝移植についての説明を行い、血液型から3名にドナー適応があったため、そのうち女性Aの子がドナーになることになりました。
しかし2日後、女性Aは肝硬変の悪化により死亡し、生体肝移植は実施されませんでした。
原告らは、肝硬変の治療にあたり、生体肝移植について説明すべき義務を怠ったとしてB医師に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、重篤な肝硬変について検査、診断、治療などに当たることが診療契約に基づき、被告病院に要求される医療水準であることを指摘しました。
そのうえで、女性Aは重篤な肝硬変で、平成17年3月以降は、内科的治療には限界があり早晩死を免れず、生体肝移植の適応があったことが認められるため、B医師には女性Aおよび家族らに対して、女性Aの肝硬変が重篤であり内科的治療では早晩死を免れないこと、唯一の治療法として生体肝移植があり、生体肝移植について説明を行い実施するか否かを女性Aおよび家族らに判断させるべきであったことを認めました。
しかし、B医師は女性Aや家族らに対して治療法として生体肝移植があることを説明したことは一切なかったため、B医師には説明義務違反があると判断しました。
因果関係については、B医師が本件説明を実施し女性Aがそれに同意して生体肝移植が実施されていれば、死亡の時点において生存していた相当程度の可能性があったことを認めました。
結果裁判所は、生体肝移植について説明すべき義務を怠ったとして被告病院に対して約480万円の賠償を命じました。
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