判決東京地方裁判所 平成15年2月28日判決
切迫早産とは、早産するリスクの高い状態のことであり、「子宮収縮があること」と「子宮の出口が短くなっていること」の2点を満たした状態です。早産とは、日本においては妊娠22週から妊娠37週未満の期間に出産することです。
切迫早産を引き起こす原因は完全には解明されていないものの、原因の1つとして細菌が引き起こす子宮内の炎症が挙げられます。
切迫早産が発生すると、前期破水のリスクが高まります。前期破水とは陣痛の前に破水してしまうことであり、羊水が流れ出ることにより、胎児が細菌やウイルスに感染するリスクが高まります。前期破水による感染は胎児だけでなく母体にとっても危険であるため、帝王切開などによって出産させる必要が生じます。
以下では、破水があったとして受診した女性を入院させなかったこと等について医師の過失を認めず、原告らの請求が棄却された事件を紹介します。
女性Aは妊娠し、6月30日が出産予定日とされていましたが、5月3日に破水があったとして被告病院を受診しました。
このとき、被告病院の医師はBTB検査を行い、羊水によって青くなる反応がなかったため破水していないと判断して女性Aを帰宅させました。
5月4日、女性Aは午前3時頃に破水して、午前9時50分に被告病院を受診しました。医師は子宮内感染を疑うべき症状はないと考えたものの、感染の可能性を考慮して血液検査や皮内テストを行いました。午前11時24分には、抗生物質製剤であるセフメタゾンの点滴を開始しました。
昼の12時に、女性Aの血液検査の結果により感染を示す結果が判明し、子宮内感染と診断されました。午後1時50分に帝王切開によって出産しましたが、生まれた子供はその日のうちに死亡しました。
母親Aと配偶者である父親Bが原告となり、子供が死亡した原因として女性Aを入院させて検査を行わなかった過失などを主張して、被告病院を開設している地方自治体である被告に対して損害賠償を請求しました。
裁判所は、原告らが主張した次の4つの過失などについて検討しました。
①について、被告病院の医師は感度が高いとされるBTB検査を2回実施しており、陰性であったため破水していないと判断していたことや、前期破水が認められなかったこと、切迫早産は今後のリスクとして考えられる状況に留まっていたこと子宮内感染症を疑うべき状況ではなかったこと等から、女性Aを入院させずに自宅管理としたことに過失は認められないとしました。
②について、原告らは「5月9日まで家で安静にするように」と指示されただけだと主張していましたが、医師は水の出る感じを繰り返すなどした場合にはすぐに連絡するように指示し、夜でも自分が病院にいることを伝えたと証言しており、具体的で十分に信用できるため説明義務違反を否定しました。
③について、帝王切開は出血が多いこと等から必要のない者には行わない方が良いとされており、緊急帝王切開は「胎児仮死(現在の胎児機能不全)」や「子宮内感染」の場合に行うものであるため、5月4日の午前9時50分には「胎児仮死」や「子宮内感染」だったと認められず、その後に時間がかかったのは検査が立て込んでいたためであり過失は認められないとしました。
④について、5月4日の午前9時50分に子宮内感染の対策を行う根拠はなく、その後で抗生物質の皮内テストを行ったのは投与によるショックを防ぐために必要なことであり、抗生物質の投与が遅れた過失は認められないとしました。
以上のことから、裁判所は被告病院の医師らに過失があることを否定して、原告の請求を棄却しました。
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