妊婦が妊娠初期に風疹に感染したことを疑っており症状もあったが、医師が適切な時期の検査を失念し、結果として先天性風疹症候群の疾患のある子供が生まれたことについて医師の注意義務違反を認めたものの、医療費等との相当因果関係を認めず自己決定の利益の侵害のみを認めた事件

判決東京地方裁判所 平成4年7月8日判決

風疹とは、風疹ウイルスによる感染症であり、発熱や発疹、リンパ節の腫れといった症状を引き起こします。特効薬はありませんが、感染しても重症化するリスクは低いです。ただし、確率は低いものの脳炎を発症するリスクがあるだけでなく、妊娠初期の妊婦が感染すると「先天性風疹症候群」を引き起こすリスクがあります。

先天性風疹症候群とは、胎児にウイルスが感染して、先天性心疾患や難聴、白内障といった症状が生じてしまうものです。妊娠3ヶ月までの妊婦の感染で発症しやすく、妊娠4ヶ月以降の感染であっても発症することがあります。

なお、先天性風疹症候群を予防するために、妊娠する可能性のある女性やそのパートナー等について、風疹ワクチンの接種が呼びかけられています。

以下では、風疹に感染したおそれのある妊婦の抗体価を検査することを医師が失念し、先天性風疹症候群である子供が生まれたことについて被告に990万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、子供が風疹にかかり自身にも発熱などの症状が生じたことや、自分に妊娠している可能性があったことから、胎児が先天性風疹症候群を発症するのではないかと心配して、1月29日に被告医院を受診しました。このときは、女性Aが妊娠していることは断定できず、風疹に感染すると増加する抗体価を検査しても基準値未満でした。

2月9日、女性Aは被告医院で妊娠していることを確定的に診断されましたが、抗体価は基準値未満のままでした。

2月12日、女性Aは腹部などに発疹が出ていることに気づき、被告医院を訪れました。このときの検査では抗体価が基準値に達していましたが、明確な判断ができないため、2月14日の電話において、検査の一週間後である2月19日にもう1回の検査を行うことを伝えました。しかし、女性Aは電話の一週間後である2月21日に検査すると誤解してしまいました。

2月19日、女性Aは診療時間内に被告医院を受診しませんでしたが、切迫早産の兆候があったため夜に受診し、翌日である20日から27日まで入院しました。その間も退院後も、女性Aの抗体価の検査が行われることはありませんでした。

10月13日、女性Aは出産しましたが、子供は体重がおよそ1600グラムの未熟児で、先天性風疹症候群により両目の白内障や聴覚障害、発達遅延などを患っていました。後の検査で、女性Aの抗体価が上昇しており、風疹に感染していたことが確認されました。

原告らは、医師が検査を怠ったために女性Aは妊娠を継続し、先天性風疹症候群の疾患のある子供を産むに至ったとして被告に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、女性Aが風疹に感染したことについて、風疹の潜伏期間は10日~21日であり、発病後2週間~4週間で抗体価が最高値になること等から、女性Aが入院して以降の適切な時期に検査を行えば容易に発見できたとしました。

さらに、2月12日までの検査では風疹に感染したことを否定する確定的な診断はできないため、入院した女性Aに検査を行わなかったのは注意義務に違反しているとしました。

なお、女性Aが誤解により診療時間内に検査を受けなかったことについては、その後に被告医院に入院していることから、注意義務違反を免じることはできないとしました。

以上のことから、原告らの自己決定の利益が侵害されたことが認められました。しかし、先天性風疹症候群のリスクがあったとしても人工妊娠中絶を行うとは言えず、両親の高度な道徳観や倫理観による事柄であるため、法律上の意味における相当因果関係があるとは認めませんでした。

そして、原告らの自己決定の利益を侵害したことについての慰謝料や弁護士費用として990万円の賠償を命じました。

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