妊婦が性器からの出血等を訴えており、ノンストレステストの結果から胎児が遅発一過性徐脈であることを読み取ることが可能であったが、医師の過失により診断が遅れたことについて死産との因果関係を認めた事件

判決徳島地方裁判所 平成30年7月11日判決

ノンストレステストとは、陣痛が生じる前に胎児の心拍数や子宮の収縮を記録して、胎児の健康状態を確認する検査です。英語表記の頭文字から「NST」という略称が用いられます。

NSTは分娩監視装置を用いて行われ、胎児の心拍数や子宮の収縮が「胎児心拍数陣痛図」に記録されます。胎児心拍数陣痛図の記録を確認して、胎児の心拍数が基準値を下回る「徐脈」の中でも、子宮の収縮から30秒以上遅れて発生する「遅発一過性徐脈」が確認された場合には、胎児の状態が良好でないおそれがあります。

以下では、NSTの結果を医師が読み誤った過失と死産などとの因果関係を認めて、被告におよそ1410万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、3月13日の夕方頃に下腹部の張りを感じ、性器から少量の出血があったため、同日の午後7時40分頃に被告医院を受診しました。

午後8時8分に1回目のNSTが行われました。その結果から、医師や看護師は一過性徐脈を疑いましたが、経過観察することにして分娩監視装置を外しました。

午後10時50分頃、2回目のNSTが行われました。看護師は一過性徐脈を疑いましたが、医師は結果を読み誤ったため経過観察として、診察後に分娩監視装置が外されました。

翌日である14日の午前4時頃、女性Aは強い動悸を感じました。医師が診察し、母子が共に危険な状態に陥るおそれのある常位胎盤早期剥離だと診断して救急搬送しました。その後、女性Aは胎児を死産し、自身も大量出血して子宮摘出のリスクに晒されました。

原告らは、被告医院の医師らはNSTの結果等から胎児に異常があったことは認識できたのに必要な措置を取らなかったとして、被告に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、1回目のNSTの結果から、胎児が遅発一過性徐脈であったことが認められるとしました。しかし、反復する遅発一過性徐脈は他のパターンと誤読しやすいこと等から、経過観察としたことについて過失とはいえないとしました。

2回目のNSTの結果について、遅発一過性徐脈であることが認められ、1回目の結果とは違って判読が困難となる事情はないとしました。また、看護師が遅発一過性徐脈を疑っており、医師も1回目の時点で一過性徐脈を疑っていたことから、遅発一過性徐脈だと判読することは困難であっても胎児の心拍に異常があると疑うことはできたとしました。

さらに、性器出血や下腹部痛などの症状がある場合には常位胎盤早期剥離を疑って鑑別診断するべきであり、分娩監視装置を装着したまま胎児心拍数陣痛図の判読を継続するなどの義務があり、被告医院の医師には義務を怠った過失があるとしました。

そして、2回目のNSTが行われた時点では胎児は生きており、死亡直前だった可能性も低いことから、常位胎盤早期剥離を疑っていれば胎児が生存したまま娩出される高度の蓋然性があったため、医師の過失と胎児の死亡との因果関係があると認めました。

以上のことから、裁判所は被告に対しておよそ1410万円の賠償を命じました。

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