帝王切開後経腟分娩には子宮破裂のリスクがあること等を説明せず、子宮破裂の徴候を継続監視する体制を整えないままTOLACを行い、子宮破裂の発生後に診断が遅れたことについて、医師の過失と子供の死亡との因果関係を認めた事件

判決福島地方裁判所 平成25年9月17日判決

帝王切開後経腟分娩とは、帝王切開による出産を経験した女性が経腟分娩することです。帝王切開後経腟分娩を試すことを「TOLAC」といいます。また、TOLACに成功することを「VBAC」といいます。

一般的に、帝王切開よりも経腟分娩の方が母体の回復が早い等のメリットがあります。さらに、帝王切開を繰り返すと大量出血を引き起こす「癒着胎盤」が発生するリスクが上がること等から、帝王切開の経験があるからといって帝王切開を行うと決めつけず、TOLACが行われる場合があります。しかし、TOLACには子宮破裂などのリスクがあります。

子宮破裂とは、主に妊娠している女性の子宮に生じる裂傷です。子宮破裂が生じてしまうと、胎児の死亡率は50%~75%だと言われており、母体も出血などにより危険に晒されます。

これらのリスクがあるため、TOLACは分娩監視の体制が整っている医療施設で、緊急帝王切開や輸血などの準備をしてから行われます。また、経腟分娩をするか、帝王切開をするか等について詳しく説明を受けてから選択する必要があります。

以下では、子宮破裂の兆候を継続監視する義務等を怠った過失と、生まれた子供の死亡との因果関係を認めて、被告におよそ4313万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、平成21年1月に、帝王切開により子供を出産しました。退院のときに、女性Aは被告医院の助産師から、3年以内に再度妊娠した場合には帝王切開になることを説明されました。

平成22年3月、女性Aは妊娠したことに気づいて被告医院を受診しました。被告医院の医師は、女性Aが帝王切開を行っていることからTOLACによって子宮破裂を起こすリスクがあること等を認識していましたが、VBACは可能だと考えて原告らに経腟分娩を提案しました。このとき、「VBAC」や「子宮破裂」といった言葉を用いて危険性を説明しませんでした。

同年11月3日の午前1時50分頃、女性Aに陣痛が生じたことから原告らは被告医院を受診し、女性Aは入院しました。しかし、被告医院には継続監視が可能な助産師などがいなかったため、1時間に1回の頻度で胎児の心音を聴取しました。

同日の午前5時30分頃、女性Aは腹部にバチンという音とともに痛みを感じました。午前5時50分頃に女性Aがナースコールで痛みを訴え、午前6時10分頃に医師が女性Aを診察して子宮破裂と診断しました。

午前6時33分に、緊急帝王切開によって女性Aは子供Bを出産しました。しかし、子供Bは一度も自発呼吸や自発的体動をしないまま翌年の5月に亡くなりました。

原告らは、被告医院の医師による基本的かつ重大な過失により、子供Bが死亡するに至ったなどとして、被告に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、被告医院の医師には次の義務があったと指摘しました。

  1. ①子宮破裂の徴候がないかを継続監視できる体制を整える義務
  2. ②TOLACのリスクや帝王切開を選択できることを説明する義務
  3. ③子宮破裂の徴候を継続監視する義務

①について、TOLACは子宮破裂のリスクが帝王切開歴のない妊婦の経腟分娩と比べて高いため、少なくとも分娩が始まった後では、胎児心拍数陣痛図などによって子宮破裂の徴候を継続監視できる体制を整えておく義務があったとしました。その上で、継続監視できる者が誰もいなかったこと等から、この義務を怠ったと指摘しました。

②について、TOLACと帝王切開のいずれかを選択するために必要な情報を説明する義務があったとしました。その上で、普通にお産を進める旨や、いざとなったらいつでも手術できるようにする旨等を説明しただけであり、子宮破裂の危険性や帝王切開の方がリスクは低いこと等を説明していないことから、この義務を怠ったと指摘しました。

③について、TOLACには子宮破裂のリスクがあることから、子宮破裂の徴候を継続監視する義務があったとしました。その上で、女性Aの子宮破裂は午前5時30分頃に発生したと推認されるところ、被告医院の医師が診察したのは午前6時10分頃であることから、この義務を怠ったと指摘しました。

そして、これらの義務を怠った過失と子供の死亡には相当因果関係があると認めて、裁判所は被告に対しておよそ4313万円の賠償を命じました。

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