遷延分娩の状態にあった胎児を娩出させるときに、医師が吸引分娩に固執して約50分間も反復し、鉗子分娩や帝王切開を行わなかった過失と、胎便吸引症候群による子供の死亡との因果関係を認めた事件

判決名古屋高等裁判所 平成14年2月14日判決

吸引分娩とは、胎児の頭部に吸引カップを吸着させて牽引することにより娩出させる方法です。分娩が長引いて、母体や胎児の負担が大きくなったとき等に、迅速に分娩させるために用いられます。

吸引分娩には、生まれた子供の頭に血腫ができるリスクや、産道を損傷するリスク等があります。しかし、分娩が長引くと胎児が酸欠になり「胎便吸引症候群」を引き起こすリスク等があるため、なるべく早く娩出させるために行います。

胎便吸引症候群とは、胎児が酸欠になること等によって子宮内で排便してしまい、それを吸い込んでしまう疾患です。胎便が気道に入ってしまうと呼吸障害を起こすおそれがあります。この疾患は、胎児に排便能力が備わる妊娠36週以降に発生することが多いです。

以下では、医師が吸引分娩に固執して約50分間も反復した過失と、子供が死亡したことの因果関係を認めて、被告におよそ3605万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

妊娠していた女性Aは、4月23日に陣痛を訴えて被控訴人医院に入院しました。

翌日である4月24日、女性Aは午前3時45分頃に破水し、午前6時30分には子宮口が「ほとんど開大」しました。

カルテには、午前7時に児頭が骨盤出口部まで下降したと記載されています。

午前9時30分頃、被控訴人医院の医師は吸引分娩を実施し、午前10時20分頃まで繰り返し行いましたが、胎児を娩出させることはできませんでした。

その後、女性Aは他の病院に救急搬送されて、会陰切開と鉗子分娩が実施され、午後0時31分に子供Bを出産しました。しかし、子供Bの身体には胎便が付着しており、午後4時8分に胎便吸引症候群によって死亡しました。

控訴人らは、被控訴人医院の医師には児頭の位置を誤って判断した過失や、吸引分娩を長時間に渡って多数回行った過失があるなどとして、被控訴人に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

原審は、医師の過失を認めず請求を棄却したので、控訴人らは控訴しました。

控訴審において、裁判所は午前6時30分に子宮口が「ほとんど開大」したことについて、子宮口は全開大であり分娩第2期が開始したと指摘しました。

なお、分娩第2期とは子宮口が全開大になってから胎児を娩出するまでの期間であり、初産婦では1~2時間で終わるため、2時間を超えると遷延分娩(第2期遷延)だと評価されます。

そのため、被控訴人医院の医師が吸引分娩を開始した午前9時30分には遷延分娩の状態にあったと認めました。

また、午前7時に児頭が骨盤出口部まで下降していれば、午前9時30分から吸引分娩を30分以上も反復しても胎児を娩出できないことはあり得ないとされており、医師が児頭の高さの診断を誤ったと認定しました。

その上で、吸引分娩は1回の牽引は2分まで、試行するのは3回程度まで、時間は最大で30分以内とされていることから、被控訴人医院の医師には、約50分も吸引分娩に固執して鉗子分娩や帝王切開を行わなかった過失があると指摘しました。

そして、吸引分娩を約50分も反復した過失と、子供が胎便吸引症候群によって死亡したことには相当因果関係があると認めて、裁判所は被控訴人に対しておよそ3605万円の賠償を命じました。

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