医師が子宮収縮剤の添付文書に記載されているよりも多くの量を投与した過失や、帝王切開を適切なタイミングで行わなかった過失と、子供が脳性麻痺によって身体障害を負ったこととの因果関係を認めた事件

判決広島地方裁判所福山支部 平成28年8月3日判決

陣痛促進剤とは、子宮を収縮させて陣痛を生じさせる薬です。破水したのに陣痛が生じない場合や陣痛が弱いために出産が長引いている場合等、胎児を早く娩出するのが望ましいときに使用します。

ただし、陣痛促進剤の効果には個人差があることが知られており、効果が強く生じてしまうと「過強陣痛」が発生するリスクがあります。

過強陣痛とは、陣痛が強くなりすぎることであり、子宮破裂のリスクや、胎児が酸欠などになって弱ってしまう「胎児機能不全」のリスクを伴います。

そのため、陣痛促進剤を点滴によって投与するときには、分娩監視装置で胎児の様子を確認しながら、最初に少量を投与し、時間をかけて少しずつ投与量を増やしていくことが求められます。

以下では、子宮収縮剤を添付文書で定められているよりも多く投与した過失等と、生まれた子供が脳性麻痺による障害を負ったこととの因果関係を認めて、被告に約1億4200万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは妊娠しており、6月17日の午前7時頃に陣痛が始まって、午前9時30分頃に被告医院に入院しました。

女性Aの分娩は進まず、痛みを訴え続けたことから、被告医院の医師は午後9時20分頃に硬膜外麻酔を実施しました。硬膜外麻酔を使用すると陣痛が弱くなることから、午後9時30分頃にはオキシトシンを有効成分とする陣痛促進剤の投与を開始しました。このとき、当初の投与量は1分あたり2.5ミリ単位であり、30分おきに1分あたりの投与量を2.5ミリ単位増やすことにしました。

それから、薬の効果が強すぎるときや弱すぎるときには、医師の判断で投与量を調整しました。

翌日である6月18日の午前4時46分頃から、分娩監視装置の記録である「胎児心拍数陣痛図」には、胎児機能不全などの出現を警告する「遅発一過性徐脈」が繰り返し発生しました。被告医院の医師は、午前7時23分に帝王切開等の適用があると判断したものの、人員等を考慮して実施しませんでした。

午前8時3分、女性Aは自然分娩により子供Bを出産しました。しかし、子供Bは出生時点で自発呼吸がなく、その後で状態が安定したと判断されたものの、発熱する等したことから転院して治療を受けました。転院先で、子供Bは低酸素脳症と診断され、脳性麻痺による体幹機能障害1級の身体障害者と認定されました。

原告らは、被告医院の医師が陣痛促進剤を慎重に投与せず、帝王切開などを行わなかった注意義務違反があるなどとして、被告に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、投与された陣痛促進剤の添付文書に、1分あたり2ミリ単位から投与を開始し、点滴速度を上げる場合には一度に1分あたり1~2ミリ単位の範囲とするとされており、被告医院の医師はこれよりも多くの陣痛促進剤を投与したことを指摘しました。

この点について、硬膜外麻酔を実施している場合に投与量を増やすべきだという医学的な根拠はないため、被告医院の医師には添付文書の注意事項に従わなかった過失があるとしました。

また、胎児心拍数陣痛図によって、6月18日の午前7時23分よりも約3時間前に遅発一過性徐脈が確認できるため、緊急帝王切開を施行するべきであったと指摘して、被告医院の医師には帝王切開を実施しなかった過失があるとしました。

そして、添付文書の注意事項に従わなかった過失や帝王切開を実施しなかった過失と、脳性麻痺により子供Bが後遺障害を負ったこととの因果関係を認めて、裁判所は被告に対して約1億4200万円の賠償を命じました。

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