医師が陣痛促進剤の錠剤を添付文書に定められた量よりも多く投与して、十分な時間を置かずに点滴を投与しながら、分娩監視装置による胎児機能不全の監視を怠ったことについて不法行為責任を認めた事件

判決前橋地方裁判所 平成15年2月7日判決

陣痛促進剤とは、子宮を収縮させて陣痛を生じさせる薬です。出産予定日になっても陣痛がないままで、胎児が大きくなりすぎるおそれがある場合等に利用されます。

陣痛促進剤として一般的に知られているものは、「プロスタグランジン」と「オキシトシン」という2種類のホルモンのどちらかを有効成分としています。この2種類のホルモンは、どちらも女性の身体で分泌されているものですが、陣痛促進剤として投与するときには併用することが禁じられており、どちらかだけを用います。

陣痛促進剤の併用を行ったり、定められている量よりも多く投与したりすると「過強陣痛」が発生するリスクがあります。

過強陣痛とは、陣痛が強くなりすぎることです。陣痛が強すぎると、胎児が酸欠などになって弱ってしまう「胎児機能不全」を引き起こすおそれがあります。胎児機能不全を防ぐために、陣痛促進剤を投与するときには用法・用量を守ることや、分娩監視装置による分娩監視を行うことが重要です。

以下では、子宮収縮剤の錠剤を添付文書の定めよりも多く投与した過失等を認めて、被告らに約1億2846万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、出産予定日であった3月7日を過ぎても陣痛がなかったため、3月16日に被告病院に入院して、陣痛促進剤の投与を受けることになりました。

3月17日の8時30分頃、被告病院の医師は女性Aに対してプロスタグランジンの錠剤1錠を投与し、それから15時30分まで、1時間おきに合計8錠を投与しました。

さらに、16時25分からは点滴によるプロスタグランジンの投与を開始して、17時5分と21時5分には投与量を増やしました。

23時頃、女性Aは子供Bを出産しましたが、子供Bは仮死状態であり、治療が行われたものの後遺障害により労働能力を生涯に渡って100%喪失しました。

原告らは、子宮収縮剤の錠剤を添付文書の定めよりも多く投与した過失や、分娩監視装置によって胎児機能不全の監視を行わなかった過失があるなどとして、被告らに損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、プロスタグランジンの錠剤の添付文書に1日6錠を投与すると定められていることや、錠剤と点滴を併用しないように定められていること、錠剤と点滴を前後して投与する場合には過強陣痛に注意して監視するように定められていること等を指摘しました。

その上で、錠剤を1日のうちに8錠投与したのは多すぎること、それから1時間程度しか経っていない時点で点滴を開始して、さらに増量したのは許容投与量をはるかに超えていることを認めました。

また、被告病院の医師らは、3月17日の7時頃から30分間だけ分娩監視装置を装着しただけで、他の装置によって1時間ごとに1回だけ胎児心拍数を計測しても、胎児仮死(胎児機能不全)のモニターがきちんと行われていたとは言えないとしました。

なお、被告らによる、胎児仮死はなく新生児仮死であった旨の反論については、新生児仮死を生じさせる特段の事情は認められないことや、胎児仮死の証拠がないのは分娩監視が行われなかったためであること等を理由に退けられました。

以上のことから、被告らの不法行為責任を認めて、裁判所は被告らに対して約1億2846万円の賠償を命じました。

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