医師が産科DICスコアをカウントせず、女性が産科DICであると早期に診断しなかった過失や、ショックに対する治療・輸血等の処置が遅れた過失と、女性の死亡との間に因果関係を認めた事件

判決静岡地方裁判所 平成27年4月17日判決東京高等裁判所 平成28年5月26日判決

産科DICとは、妊娠中や分娩時に発症するDIC(播種性血管内凝固症候群)のことです。DICとは、全身の血管内で血栓(血の塊)ができることによって血小板などが消費され、同時に血栓を破壊しようとする作用が強まることによって大量出血する疾患です。

産科DICの原因としては、常位胎盤早期剥離や羊水塞栓症などが挙げられます。産科DICは急激に進行することが多いため、発症してしまったら、すぐに診断して処置を行わなければなりません。そのため、時間的な余裕がないことから、妊婦の疾患や症状などによって「産科DICスコア」をカウントし、そのスコアが高ければDICとして治療を開始します。

以下では、産科DICによって女性が死亡したことについて、原審において請求が棄却されたものの、控訴審において約7490万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、日曜日の午前0時から陣痛を訴えており、午前7時20分頃に被告病院に到着しました。このとき、女性Aの唇の色はやや不良でした。

なお、被告病院では日曜日に通常の診療を行っておらず、また、被告病院の産婦人科病棟にICUはありませんでした。

被告病院の医師が腹部エコー検査を行ったところ、女性Aの子宮壁と胎盤の間に血液と思われる像があったこと等から、常位胎盤早期剥離を発症したと判断しました。

午前9時24、被告病院の医師らは帝王切開によって胎児を娩出させましたが、9時27分に娩出させた子供の死亡を確認しました。

さらに、午前9時30分頃に女性Aはショックに陥り、午後1時40分に女性Aの死亡が確認されました。

原告らは、女性Aが死亡したことについて、被告病院の医師らには出血性ショックの兆候があったのに十分な輸血を行わなかった過失があるなどとして、被告らに損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

【原審】

裁判所は、常位胎盤早期剝離によって胎児が死亡したケースでは産科DICを発症しやすいため、産科DICスコアをカウントして、なるべく早く治療を開始するべきだったと指摘しました。

そして、カルテにおける女性Aの顔色の描写等から、産科DICスコアは午前8時40分頃には「DICに進展する可能性が高い」とされている基準に達していたと判断しました。

その上で、被告病院の医師らは産科DICスコアをカウントせず、DICを治療するための準備が遅れたため、治療行為上の過失があると指摘しました。

しかし、女性Aの出血量が午前9時30分に出血性ショックを起こす量であったとは推定できないことから、羊水塞栓症によるショックであったと認定しました。

そして、被告病院にICUがなかったこと等を踏まえて、被告病院の医師らの過失がなかったとしても女性Aを救命できたとは認められないため、医師らの過失と女性Aの死亡との間に相当因果関係がないとして原告らの請求を棄却しました。

【控訴審】

裁判所は、常位胎盤早期剝離によって胎児が死亡したケースについて、原審と同様の指摘をしました。また、女性Aにショックが生じた9時30分よりも前に、産科DICスコアは「DICに進展する可能性が高い」とされている基準に達していたと判断しました。

その上で、スコアをカウントせず、産科DICの確定診断のために血液検査などを実施しなかったことは、なるべく早くDIC治療を開始する注意義務に違反していたと認定しました。

また、当時のガイドラインには掲載されていなかったものの、SI(ショック指数)が1.5を超えて、産科DICスコアが8を超えたら直ちに輸血を開始することが、臨床医学における医療水準になっていたと認めました。

その上で、女性Aは午前9時30分にはショックに陥っており、被控訴人病院の医師らはショックに対する治療や輸血を行わなかった過失等があると認定しました。

そして、被控訴人病院の医師らの過失には、女性Aが死亡した結果との間に因果関係があると認めました。

以上のことから、被控訴人らの不法行為責任を認めて、裁判所は被控訴人らに対して約7490万円の賠償を命じました。

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