カンガルーケア中に新生児が心肺停止になり、脳への酸素供給が滞ったことにより後遺症として脳性麻痺が残存するに至ったことに関し過失が認められなかった事件

判決松山地方裁判所 平成28年1月20日判決

カンガルーケアとは、出産後すぐに新生児をお母さんの胸元で抱っこをして、母子のきずなを深める対面ケアのことです。母子の肌が直接触れ合うことで新生児の体温が保たれて、心拍と呼吸、血糖値が安定するという効果が確認されており多くの産院で実施されています。

カンガルーケアは母子ともに有効なケアですが、新生児はとてもデリケートなので容態が急変するリスクがあります。そのため、助産師などが付き添い、容態が急変してもすぐに対応できるように環境を整えて実施することが大切です。

以下では、カンガルーケアの実施中に新生児が心肺停止に陥り、後遺症として重篤な脳性麻痺が残存したことについて、病院の過失が否定されて原告の請求が棄却された事件を紹介します。

事案の概要

母親Aは午前9時頃、自然分娩により子供Bを出産しました。体重の計測や採血をした後にカンガルーケアが実施されましたが、採血の結果、低血糖であることが判明したため、カンガルーケアを中断しました。助産師は、子供Bにブドウ糖を10ml哺乳させた後、皮膚色、呼吸状態に問題はなく体温低下も見受けられなかったので正常と判断して、午前9時25分頃カンガルーケアを再開しました。助産師は、何か異常があれば知らせるように告げて、母子の傍から離れました。

午前9時55分頃、助産師が血糖値の再検査のために母子の部屋へ入室したところ、子供Bの身体は全身蒼白になり、呼吸をしていなかったため蘇生措置が行われました。心拍は回復しましたが、脳への酸素供給が滞ったことにより、重篤な脳性麻痺が残ってしまいました。

原告らは、カンガルーケアを実施するにあたっての説明が適切に行われていなかった過失と、低血糖が発症した際に適切な処置をせずにカンガルーケアを再開させたうえ、子供Bの経過観察を怠った過失が有るということを理由に、被告病院に対し損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、下記の4つの過失について検討しました。

  1. ①心肺停止は低血糖が原因で発症したか
  2. ②カンガルーケアについての説明が事前に適切に行われていたか
  3. ③カンガルーケア実施中の観察について適切に行われていたか
  4. ④低血糖を発症した際の対応は適切に行われていたか

その結果、①について、脳性麻痺と心肺停止の因果関係は認めるが、子供Bにブドウ糖を10ml哺乳させた後に、その後の血糖値は正常で高値を維持していることから、低血糖が原因で心肺停止になった根拠はなく認められないとしました。

②について、カンガルーケアは医療行為というよりも母子の結びつきを強める自然な行為としての一面が強く、病院側が詳細な説明を行わなければ実施できない行為ではないと考えられるため、過失があったとは認められないとしました。

③について、カンガルーケアは新生児の心肺停止などの重大なリスクを高める行為ではないことから、実際にモニターの装着や、常時職員が付き添っている病院は少なく、助産師は適切な時間に子供Bの血糖値の再検査の予定をしていたことから、観察について過失があったとは認められないとしました。

④について、新生児は生まれた直後に血糖値が低下し、その後徐々に上昇するのが通常であり、一過性の低血糖で、その他に新生児の状態に問題がなければ被告病院の職員が低血糖の治療をすべき義務はなく、カンガルーケアを再開させたことについても不適切な対応ではないとし、過失があったとは認められないとしました。

以上の点を踏まえて、裁判所は被告病院に対して、債務不履行ないし過失があったと認められず、原告の請求を棄却しました。

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