劇症型A群レンサ球菌感染症により高熱を出した妊婦についてウイルス性胃腸炎と誤診し、結果として母子共に死亡したことについて、稀な症例であるため母親を正しく診断できなかった過失については認めなかったものの、胎児を分娩監視装置で監視しなかったために死亡させた過失は認めた事件

判決東京地方裁判所立川支部 平成23年9月22日判決

溶連菌感染症とは、溶連菌(溶血性レンサ球菌)という細菌によって引き起こされる感染症です。溶連菌の中でもA群溶連菌は子供の咽頭炎を引き起こす細菌として知られており、感染すると舌が腫れて、小さなブツブツとした赤みが広がる「いちご舌」が現れることが多いのが特徴です。また、身体にも発疹が出ることがあります。

溶連菌感染症を発症しても、多くの場合には自然に治ります。しかし、劇症型A群レンサ球菌感染症を発症してしまうと患者の約30%が死亡するとされており、筋肉などの組織を壊死させることがあるため「人食いバクテリア」という呼称でメディアに取り上げられています。

劇症型A群レンサ球菌感染症を発症したときには、抗生物質の投与による治療や、壊死した部位を切除する治療等が行われます。

なお、溶連菌にはA群以外にも数多くの種類があります。中でもB群溶連菌は女性の膣内等に存在することのある細菌で、出産に伴って新生児に感染するリスクがあるため事前に検査を行い、存在が確認されたら出産時に抗菌薬を投与して感染を防ぎます。

以下では、妊婦がA群溶連菌に感染して高熱を出し、胎児であった子供が過強陣痛による低酸素によって死亡して、母親も敗血症性ショックで死亡したことについて、胎児の死亡についてのみ過失を認めて、被告らに約4549万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

妊娠していた女性Cは、1月28日の午前6時頃から39.3℃の高熱があり、下痢や嘔吐等の症状もありました。なお、B群溶連菌の検査は既に受けており陰性でした。

同日の午前9時30分頃に、女性Cは被告医院を訪れて、午前10時5分頃に診察を受けました。

被告医院の医師は、当時ロタウイルスの検出が多かったことや女性Cの症状がウイルス性胃腸炎の症状と一致していたこと等から、ウイルス性胃腸炎の疑いがあると診断して処置が行われました。

午前11時頃、女性Cの身体に発赤が確認されましたが、医師は発熱によるものだと考えて経過観察としました。

午後0時8分頃、被告医院の看護師は女性Cに分娩監視装置を装着しました。しかし、女性Aが苦しがったため装着は11分間だけとなり、超音波を使った調査法であるドップラー法によって胎児心拍数を確認しました。

午後2時19分頃、女性Cに分娩監視装置を装着すると、過強陣痛が発生しており、胎児が重度の胎児仮死(胎児機能不全)であることが確認されました。

被告医院の医師は緊急帝王切開術を実施することを決めて、他の病院の医師を呼び、午後3時37分に執刀を開始し、午後3時43分に子供Dが娩出されました。しかし、子供Dは重度の新生児仮死の状態であり、午後4時13分に死亡しました。

さらに、2月4日には女性Cも死亡しました。死因となった疾患は劇症型A群レンサ球菌感染症による敗血症性ショックでした。

原告らは、被告医院の医師が女性Cに対する適切な診断や治療を行う注意義務を怠り、胎児であった子供Dに対する分娩監視装置による監視等も怠ったなどとして、被告らに損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、女性の死亡について、被告医院の医師が女性Cがウイルス性胃腸炎であると診断した後は、発赤が確認された時点で再検討するべきであったと認めたものの、A群溶連菌が子宮筋層に感染して敗血症性ショックを引き起こすのは極めて稀な症例であったこと等から、A群溶連菌の感染を診断できなかったとしても注意義務に違反するとは認められず、抗生物質を投与しなかったとしても、注意義務違反と認められない旨、判示しました。

一方で、胎児であった子供Dについては、妊婦が高熱を出した場合には分娩監視装置を用いて監視するべきであること等から、子供Dの状況を十分に把握するために分娩監視装置で監視するべき義務があったと指摘しました。

なお、被告らはドップラー法による胎児心拍の把握等で十分だと主張しましたが退けられました。また、分娩監視装置を装着しなかった理由として、女性Cが苦しがったことを主張しましたが、女性Cに対し、分娩監視装置による監視の重要性を説明し説得をしなかったからだとして、監視しなかった正当な理由だとはしませんでした。

さらに、子供DはA群溶連菌に感染しておらず、過強陣痛による低酸素によって死亡したと認められることから、分娩監視装置によって監視していれば早期に緊急帝王切開術を施行することができ、子供Dは問題なく生まれることができたと認めました。

以上のことから、裁判所は被告らの賠償義務を認めて、被告らに対して約4549万円の賠償を命じました。

医療過誤のご相談受付

まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。

0120-090-620
  • 24時間予約受付
  • 年中無休
  • 全国対応

※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。