帝王切開時にガーゼカウントを怠り、腹部にガーゼを残存させた状態で手術を終了させた過失により敗血症を発症し、損害賠償の請求を認めた事件

判決東京地方裁判所 平成29年12月8日判決

敗血症とは、血液に細菌が入って全身に回り、さまざまな臓器に障害が起こる病気です。敗血症の主な原因は、細菌の感染です。初期の症状としては、発熱や頭痛といった風邪の症状と似ているため注意が必要です。治療が遅れてしまうと、低血圧による意識障害を引き起こしてショック状態となります。その結果、肺や肝臓などの大事な臓器が機能しなくなり、命に関わる恐れがあるため、抗菌薬の投与等による早めの治療が必要となります。

以下では、帝王切開時に腹部にガーゼを残存し敗血症を発症させたことについて、病院側が過失を認めて、被告病院に対し約235万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、帝王切開既往妊婦で、第二子の出産のために自然分娩を希望して被告B病院を受診しました。出産予定日の5日後に陣痛が始まったため被告B病院へ入院しましたが、子宮が破裂寸前の状態になっていることが判明して、帝王切開での分娩に移行されました。

手術は、30枚のガーゼが詰め合わされている緊急帝王切開セットが使用され、約1時間で終了しました。女性Aは手術後に何度も腹部の痛みを訴えたので、腹部超音波検査が実施されましたが、ガーゼが腹部に残存していることを疑うことはなく、被告B病院は女性Aを退院させました。しかし女性Aは、退院翌日から38度以上の発熱の症状が出始めました。その後、産後2週間検診のために被告B病院に訪れて、発熱や喉の痛みなどの症状を訴えましたが、血液検査、腹部の触診および腹部超音波検査を実施するのみで、再びガーゼの残存を疑うことはなく、内科の受診を勧めました。女性Aは術後15日目に、内科C病院を受診し、そこで初めて腹部にしこりがあることを指摘され、D病院にて腹部に1枚のガーゼが残存していることが確認されました。ガーゼの摘出手術の際に、女性Aは敗血症に罹患していると診断されて1週間入院することになりました。

原告は、帝王切開時にガーゼを残存し敗血症を発症させた過失があるということを理由に、被告A病院に対して、損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

本件は、被告B病院が、ガーゼを残存した過失については争わず認めたことにより、その他の過失と損害額が争点となりました。

裁判所は、①女性Aに対して事前に、自然分娩での出産は難しいということを説明していなかったことや、②手術前後にガーゼが30枚あることについて確認を怠ったおそれがないか検討しました。

その結果、①被告B病院は自然分娩の可能性はほとんどなく帝王切開になると認識していたのであれば、自然分娩を希望していた女性Aに対して医療的知見に基づき事前に説明する義務があったと認めました。また、②被告B病院は、手術前後にガーゼの枚数を確認したと主張していましたが、閉腹前と閉腹後ではそれぞれ別の助産師がガーゼを数えていたにも関わらず、2度も数え間違えることは大変珍しいことであるため、ガーゼの枚数をカウントしていなかったおそれがあると疑いました。そこで裁判所は、ガーゼのカウントをした本人を尋問するべく裁判所への出頭を呼びかけましたが、本人は出頭することなく、弁明する機会を自ら放棄したとして、被告B病院の主張に対して疑いをさらに強めて、被告B病院に少なくとも過失があると認めました。

①②を踏まえて、裁判所は被告病院に対し、相当な損害額として約235万円の賠償を命じました。

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