一絨毛膜二羊膜双胎を二卵性二胎盤と誤診したために、双胎間輸血症候群を発症した双子に対して適切な処置が行われず、一方が死亡した事件

判決福井地方裁判所 令和2年3月4日判決

双胎間輸血症候群とは、双胎妊娠(双子)である胎児の両方が1つの胎盤に臍帯(へその緒)でつながっており、母体から受け取る血液のバランスが崩れてしまうことによって発生する病気です。

1つの胎盤を双子が共有していても、双胎間輸血症候群を発症する確率は10%程度だと言われています。しかし、発症してしまうと血液の多い方の胎児には高血圧等の影響が生じ、血液の少ない方の胎児には貧血や低血圧等の影響が生じます。

双胎間輸血症候群の発症により、血液が多い方と少ない方、どちらの胎児も死亡するリスクが生じます。しかし、現在ではレーザーによって双方の胎児をつないでいる血管を凝固させる「胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)」や、増えすぎた羊水を吸引して減らす「羊水吸引除去術」によって、両方の胎児を無事に出産できる可能性が向上しています。

以下では、医師が超音波検査をしたときに、1つの胎盤を双子が共有していることを見落とした注意義務違反を認めて、被告におよそ4874万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは被告クリニックで妊娠したと診断されて超音波検査を受け、胎児が双子であることが確認されました。

このとき、両方の胎児が異なる羊膜に包まれているものの、1つの胎盤を共有している「一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎)」であると画像から確認することが可能であったところ、医師は「二卵性」と診断しました。

被告クリニックの医師は、後日にも女性Aに超音波検査を行いましたが、「二卵性二胎盤」と診断しました。

その後、女性Aは被告クリニックに入院して双子を出産したものの、妹である子供Bは他院に搬送されて、双胎間輸血症候群による失血のため死亡しました。

原告らは、被告クリニックの医師にはMD双胎だと診断して必要な処置ができる病院等に転院させる義務があったなどとして、被告らに損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、被告クリニックの医師は最初の超音波検査によってMD双胎だと診断できたのにこれを怠り、後日には二卵性二胎盤と誤診して転院をすすめる等せずに出産に至らせたことから、注意義務違反を認めました。

そして、被告クリニックの医師が適切に診断して転院させる等すれば、胎児が双胎間輸血症候群を発症したときにFLPを実施して子供Bを助けることができたと認定しました。

被告らは、MD双胎には脳性麻痺や生存率が低下する等のリスクがあるため、賠償額の減額等が行われるべきだと主張しましたが、MD双胎だと診断して適切な治療を行っていれば予後の改善が見込まれたため退けられました。

以上のことから、裁判所は被告の注意義務違反を認めて、被告に対しておよそ4874万円の賠償を命じました。

医療過誤のご相談受付

まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。

0120-090-620
  • 24時間予約受付
  • 年中無休
  • 全国対応

※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。