判決東京地方裁判所 平成17年10月12日判決
血液型不適合妊娠とは、胎児と母親の血液型が異なる妊娠です。母子の血液型が異なることによって、母親の血液中に抗体が作られてしまい、その抗体が胎児の血液に入ってしまうと胎児が貧血になる等の影響が発生します。
ABO式の血液型が不適合であっても問題は生じにくいのですが、母親がRh-であり胎児がRh+であった場合には、母親の血液中に作られた抗体によって胎児に影響が生じるおそれがあります。
さらに、出産を繰り返すことによって母親の抗体は増えていき、その抗体が減ることはほとんどないとされています。
母親がRh-である場合には、間接クームステストによって抗体価を調べ、分娩後72時間以内にグロブリン注射を行って抗体価が上昇することを防ぎます。
以下では、母親がRh-だと知らないまま第一子を出産し、第二子を妊娠したこと等から中絶に至ったものとして、医師の過失や因果関係を認めて被告らに約1100万円の賠償を命じた事件を紹介します。
母親Aは、自身のRh式血液型が-であることを知らずに第一子を妊娠し、被告医院で血液検査を受けました。血液検査の結果、母親Aの血液型がRh-であることが判明しましたが、被告医師がその結果を見落としたため母親Aに伝えられず、間接クームステストにより抗体価を調べないままで第一子を出産しました。
その後、母親Aは第二子を妊娠し、検査によって自身の血液型がRh-であることを初めて知り、同時に間接クームステストによる抗体価が上昇していることも教えられました。
母親Aと父親Bは、子供は2人か3人ほしいと思っていましたが、紹介された医療センターで第二子の出産について、子供が重い後遺障害を負うリスクがあること等について説明を受けました。
医療センターの医師は、第二子に重症の病気が起こる確率はかなり低く、多くとも10%以下であることや、医学的に中絶を強く勧めるような状況ではないこと等も説明しましたが、第二子が重い後遺障害を負うと経済的に養育が困難であることや、第一子を育てることに支障が出ること等から人工妊娠中絶を行いました。
母親Aと父親Bは、母親Aの血液型がRh-であることを見落としたために、第一子の出産から72時間以内にグロブリン注射を行わなかったことについて過失があり、そのために第二子を中絶したとして、被告らに損害賠償を請求しました。
裁判所は、産婦人科の医師は初診のときに妊婦の血液型を確認して、Rh-であることが判明した場合には、定期的に間接クームステストを行い、分娩後は72時間以内にグロブリン注射を行うべき注意義務を負うとして、被告医師が注意義務に違反したことは明らかであり過失があるとしました。
また、この過失がなければ、母親Aの抗体価が上がらなかった高度の蓋然性があり、第二子を妊娠しなかったか、血液型不適合妊娠の事実を認識して妊娠したと考えられるため、被告医師の過失と母親Aによる第二子の人工妊娠中絶との間には因果関係があると認めました。
なお、被告らは第二子のリスクが客観的に低かったことや、人工妊娠中絶を強く勧めるような状況ではなかったこと等を根拠として中絶との因果関係を否定しました。しかし、確率的には低くても抗体価が上昇するリスクがあったことや、被告医師の過失によって抗体価が上がっていたことに精神的なショックを受けた状況では中絶を選択したのも社会通念上やむを得ないこと等から被告らの主張を採用しませんでした。
以上のことから、被告らの不法行為や使用者責任を認めて、約1100万円の賠償を命じました。
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