出産に伴って1800グラム以上の出血をした女性が出血性ショックに陥ったが、急速輸液を行わなかった過失等により死亡させたことについて賠償を認めた事件

判決東京地方裁判所 平成17年9月30日判決東京高等裁判所 平成19年3月27日判決

出血性ショックは、出血により体から大量の血液が失われることで、全身の臓器障害が引き起こされる状態です。

出産のときに癒着胎盤の剥離などによる出血や、交通事故などでの外傷による出血、大動脈瘤の破裂などによる出血等によって引き起こされます。

出血性ショックの治療として、止血をしながら輸液や輸血が行われます。ただし、輸血についてはウイルス感染などのリスクがあるため、輸液によっても血圧が不安定となる場合等に用いられることが多いです。

以下では、出産に伴って1800グラム以上の出血をした女性が死亡したことについて、原審において請求が棄却されたものの、控訴審においておよそ7800万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

母親Aは、出産のために被告病院に入院しており、女児を出産しました。それに伴って、癒着胎盤を剥離したこと等により出血し、その日のうちに出血はほとんど止まったものの1800グラム以上の出血をしました。

なお、ヘモグロビン値などの検査結果から、より多くの出血をしていた疑いがあるものの証拠がないことから、どの程度の出血があったのかは不明とされています。

被告病院の医師らは、1030mlの輸液をヴィーンFによって行いました。ヴィーンFは細胞外液補充剤であり、失血により減少した循環血液量をヴィーンFだけで補うためには失血の3~4倍の量が必要とされています。

母親Aの配偶者であった父親Bと、母親Aの子供Cは、被告病院の医師らが出血性ショックに対する適切な輸液や輸血を怠った過失があるなどと主張して、被告病院に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

【原審】

裁判所は、被告病院における母親Aへの輸液がヴィーンFによる1030mlのみであったことについて、1800グラム以上の出血に対しては少なく、標準的な措置がとられなかったとしながらも、不十分とまではいえないと評価しました。

また、出血が2000グラム以上であっても輸血は行わず、輸液のみで回復することも少なくないため、輸血をする義務もなかったとして、輸液や輸血についての過失はないとしました。

さらに、母親Aの全身状態の管理・観察を怠ったという指摘について、治療行為として不十分であったとまで指摘するものではないとして退けました。加えて、高次医療機関に搬送するのが遅れたという指摘を結果論として退けました。

そして、母親Aが胸部痛を訴えたこと等から死因は羊水塞栓症である可能性が高く、そうであれば大量の輸液や輸血を行っても救命できたとは認められないとして原告の請求を棄却しました。

【控訴審】

裁判所は、母親Aが出産後に血圧低下などが生じており、出血量が500mlを超えたときにはショックに陥ることもあり得ること等からショック状態にあったとしました。被告病院の医師らは、母親Aがショック状態に陥ったときから急速輸液を行うべきだったとして、適切な輸液を行わなかった過失があるとしました。

また、被告病院の医師らは母親Aの全身状態の管理・観察を怠っており、状況確認を怠ったために高次医療機関への搬送が遅れた点について過失があるとしました。

さらに、羊水塞栓症はごくまれな疾病であるため明確な兆候がなければ罹患が認められないとしたうえで、羊水塞栓症であれば半数以上が胸の痛みなどを訴えてから1時間以内に死亡するため、それほど急激な診療経過ではなかった母親Aは羊水塞栓症と認められないこと等から、救命可能性はあったと認めました。

以上のことから、裁判所は被告病院の医師らの過失と母親Aの死亡との因果関係を認め、被告病院におよそ7800万円の賠償を命じました。

医療過誤のご相談受付

まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。

0120-090-620
  • 24時間予約受付
  • 年中無休
  • 全国対応

※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。