胎児が低酸素状態に陥り急速遂娩の必要があったのにもかかわらず、医師が心拍数陣痛図(CTG)の観察を怠ったことにより子が重度脳性麻痺障害を負った過失が認められた事件

判決富山地方裁判所 平成15年7月9日判決

胎児心拍数陣痛図(CTG)とは、胎児心拍数の状態と胎動や子宮収縮に対して胎児の心拍数がどのように変化しているかを確認するためのグラフです。

遅発一過性徐脈とは、子宮の収縮に伴って心拍数が緩やかに減少して、緩やかに回復する波形です。また、胎児が酸素不足に陥ってしまう状態を反映する所見のため、母体の体位変換を行い、酸素を体中に行き渡らせることが重要です。それでも改善しない場合は、緊急の帝王切開や適切な新生児蘇生を行う必要性があります。

以下では、胎児心拍数陣痛図(CTG)で胎児が安心状態でない基線が現れているにもかかわらず医師が観察義務を怠ったことにより、子に重度脳性麻痺の後遺症が残存したことについて、病院側に過失があると認めて約8700万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは初産で、4月19日に陣痛が始まったため被告病院へ入院しました。同日20時に分娩室に入室して、20時50分ころに子宮口全開となりました。

23時ころまでの胎児心拍数陣痛図(CTG)は、20時47分から56分にかけて子宮収縮に伴う遅発一過性徐脈。21時17分から周期的な遅発一過性徐脈。21時30分から40分、21時42分から55分に遅発一過性徐脈。22時6分から9分、22時39分から40分、22時46分から48分に胎児心拍数基線の正常値超。22時10分から13分まで、高度変動一過性徐脈。22時55分以降に一過性徐脈が発生しました。

その後、23時10分を過ぎた辺りから、次第に胎児心拍数基線が上昇して正常値を超えて基線細変動の減少が見られるようになりました。助産師は分娩を誘発する点滴を減量しましたが、胎児心拍数基線が正常値に戻ることはありませんでした。このことについて、助産師は良好な一過性脈と判断して、医師へ終了した点滴の更新を確認して追加をしました。

助産師は、点滴更新後の23時30分ころ、基線細変動が減少していることに気づき、医師に分娩室に来室するよう要請しました。医師が、胎児心拍数陣痛図(CTG)を確認したところ、基線変動が減少していることに初めて気づき、胎児の頭が発露状態にあったため会陰切開を行いました。

子は娩出されましたが、10分を過ぎても自発呼吸がないため新生児集中治療室に転送されました。その後、子は新生児仮死、くも膜下出血、低酸素性脳症、頭蓋内出血合併、新生児痙攣との診断をされて、重度脳性麻痺の後遺症が残存しました。

転送先病院の医師は、頭蓋内出血の原因について回旋異常があったため胎児が娩出するまでに時間がかかり、この間の児頭の圧迫と低酸素によるものであると診断しました。

原告らは、子が重度脳障害を負ったことについて、被告病院には女性Aの胎児の状態管理を怠った過失があるとして損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、胎児心拍数陣痛図(CTG)上、安心できない状態を示す所見が出現した場合は、原因を探りながら急速遂娩に備える必要があると指摘しました。また、高度変動一過性徐脈が出現したら30分以内、遅発一過性徐脈が出現したら20分以内、胎児心拍数の基線が持続的な徐脈でなければ10分以内に可能な限り速やかに分娩を完了することが望ましいと認めました。

しかし、女性Aの胎児心拍数陣痛図(CTG)所見によると、20時47分から周期的な遅発性一過性徐脈が出現して、22時13分には高度変動一過性徐脈が出現していることが認められることから、これらの経過は胎児仮死または安心できない状態と評価すべきと指摘しました。

また、母体の体位を変えたりして胎児の蘇生措置を試みつつ状況を注意深く観察して、状況が改善されなければ急速遂娩の準備をすべき義務があったと判断しました。

そして、医師が急速遂娩を決定して30分以内に娩出していれば、子に重大な後遺症が残らなかったとして被告病院に過失があると認めました。

結果裁判所は、被告病院に対して約8700万円の賠償を命じました。

医療過誤のご相談受付

まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。

0120-090-620
  • 24時間予約受付
  • 年中無休
  • 全国対応

※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。