子宮内胎児死亡を原因とする産科DICにより、およそ2500グラムの出血をしていた患者に輸血を行わなかった過失などを否定して賠償を認めなかった事件

判決東京地方裁判所 平成17年6月10日判決

子宮内胎児死亡とは、子宮内で胎児が死亡した状態のことであり、胎児の染色体異常やへその緒が巻きつくこと、常位胎盤早期剥離などの疾患等が原因となって発生します。

子宮内に死亡した胎児が長期間存在していると、母体の血中に胎児由来の成分が流入し、血を固めるための成分を消費してDIC(播種性血管内凝固症候群)を引き起こすリスクが高まります。なお、妊婦に見られるDICを「産科DIC」といいます。

DICを起こすと血が固まらないために大量出血するリスクがあります。このような事態を防ぐために、死亡した胎児は分娩を誘発するなどして早期に娩出させる必要があります。多くの場合、死亡した胎児が子宮内に4~6週間に渡って存在しているとDICを発症するリスクが高まります。

以下では、子宮内胎児死亡と診断された女性がDICによって死亡したことについて、病院の過失が否定されて原告の請求が棄却された事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、被告病院で超音波検査を受けて、子宮内胎児死亡と診断されました。そこで、被告病院に入院し、分娩誘発によって胎児を娩出することになりました。

被告病院における子宮収縮剤の投与によって、女性Aは男児を死産し、胎盤を娩出しました。そのときに確認したところ、完全子宮破裂などの異常は認められませんでしたが、会陰裂傷の縫合などのときに出血した分も合わせて1100グラム以上の出血が確認されました。出血はどす黒くさらさらとしたものでした。

被告病院の医師らは、輸液を行いながら輸血の準備を指示しましたが、女性Aを転院させたこともあり輸血は行われませんでした。被告病院から搬送されるまでに、女性Aの総出血量はおよそ2500グラムあり、血尿もありました。女性Aは、転院した救命救急センターにおいてMAP(濃厚赤血球液)等の輸血を受けましたが、DICを原因とする出血性ショックにより死亡しました。

女性Aの配偶者である男性Bや子供らが原告として、被告病院には女性Aに対してMAPを投与する義務や、女性Aが双合子宮圧迫法などで止血できる「弛緩性出血」であったことを前提として止血を行う義務があったなどと主張して、被告に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、女性Aの出血の原因が「弛緩性出血」であったか、「DIC」であったかを検討しました。弛緩性出血であれば出血は暗赤色になるはずですが、出血がどす黒くさらさらとしていたことや血尿があったことから、羊水塞栓症などを原因とするDICが原因であったとして、それを前提に被告病院の過失を検討しました。

その結果、DICに対しては凝固成分を補充する必要がありMAPは有効でないものの、出血性ショックを予防するためには投与する方が良く、出血性ショックに陥ったときにはMAPの投与は必要だと指摘しつつ、MAPの投与には高カリウム血症などのリスクもあるとしました。

そして、DICに対してはMAPを投与する義務は認められないものの、出血性ショックが生じていれば投与する義務があると評価して、被告病院が出血性ショックに陥っていなかった女性Aに対してMAPを投与する義務はなかったと認定しました。

また、女性AにMAPを投与する前に転院させたことについて、DICの治療が可能な高次医療機関に転院させた措置は妥当であったと評価して過失を否定しました。

他にも、原告らが指摘した止血の義務については、DICに対しては有効でなかったとしました。加えて、死亡した胎児が母親Aの胎内にいたのはせいぜい2日であるため、DICの発症を予見することは困難であったことから輸血を準備する義務はなかったとしました。

以上により、被告病院の治療は概ね適切であったと認めて原告らの請求を棄却しました。

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