母子同室を実施した際に、助産師が1時間20分にわたり経過観察を怠った過失により、新生児が低酸素性虚血性脳症の後遺症を負い、損害賠償の請求を認めた事件

判決福岡地方裁判所 平成26年3月25日判決

低酸素性虚血性脳症とは、脳に送られる血液や酸素が滞ることによって、脳がダメージを受けてしまう状態のことをいい、新生児の脳障害の中でも最も多い病気です。

低酸素性虚血性脳症は、新生児1000人あたり1人から2人の割合で発症すると言われています。発症した新生児のうち、約30%が痙攣や意識障害など、重度の後遺症が残ってしまったり、最悪の場合死に至るケースもあります。後遺症は経時的に重症化するため、速やかな診断と直ちに治療をする必要があります。

以下では、母子同室を実施した際に、助産師が1時間20分にわたり経過観察を怠った過失により、新生児に低酸素性虚血性脳症の後遺症が残ったことについて病院に過失があると認められ、約1億3000万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、予定帝王切開にて第2子である子供Bを出産しました。出産後、助産師は子供Bが母乳を欲しがっている行為を見せるたびに、女性Aのもとへ連れていき、母子同室で授乳を行っていました。

女性Aは午後10時頃から行われた2回目の授乳の際に、子供Bが乳首を吸わず、ぐったりしている様子に異変を感じたため、ナースコールをして助産師に伝えましたが「急患が来るので母乳を飲まなくても横に置いていてかまわない。」とだけ告げられて、その後、助産師が母子の様子を見に来ることはありませんでした。

次第に子供Bは手を握らなくなってきたため、再度ナースコールをしようとしましたが、同室にいた他の患者が全身麻酔の影響で大声を出しているのを見て、そちらの処置を優先した方が良いと考えナースコールをしませんでした。

しかし、午後11時20分頃のナースコールで助産師が母子のもとへ駆け付けたところ子供Bは顔面蒼白で、刺激にも反応はなく、呼吸心肺停止状態に陥っていました。蘇生措置後、心拍は再開されましたが子供Bは低酸素性虚血性脳症の後遺症を負うことになりました。

女性Aは、母子同室での授乳を実施した際に、助産師が子供Aの経過観察を怠った過失があるとして、被告病院に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、母と子の生理的な行為である授乳について、常時助産師などの立会いや血中酸素濃度のモニタリングを行うべき義務はない。しかし、出生直後の新生児は非常に循環や呼吸が不安定なため、被告病院は必要な範囲で母親Aへの指導や子供Bへの観察を行うべきであると判断しました。また、母親Aは帝王切開後であるということから、疲労や鎮痛剤の影響により、授乳中に睡眠状態や意識朦朧状態に陥るといった予想が出来る場合は、危険を回避するように相当な対応が必要であると判断しました。

以上の被告病院が負わなければならない経過観察の義務を踏まえて、1時間20分にわたり女性Aと子供Bの経過観察を一切行わなかった被告病院に対して、経過観察をする義務に違反したと認めました。

結果、裁判所は被告病院に対して、約1億3000万円の賠償を命じました。

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