助産師がCTGに現れた遅発一過性徐脈に気づかず、医師に報告しなかった注意義務違反と、生まれた子供の脳性麻痺との因果関係が認められた事件

判決松江地方裁判所 令和3年12月13日判決

脳性麻痺とは、妊娠が成立してから生後4週間までの間に、何らかの原因で生じた脳の損傷による後遺症のことです。損傷した脳の部位によって、手足の麻痺や意図しない動き、身体の反り返り等の影響が生じます。

脳性麻痺の原因となる脳の損傷は様々な原因によって引き起こされます。代表的な原因としては、胎児のときに臍帯(へその緒)等が圧迫されることによる酸欠や、風疹等の感染症などが挙げられます。

胎児が酸欠に陥っていないかについて、胎児の心拍数や子宮の収縮を記録するための「分娩監視装置」によって監視する必要があります。分娩監視装置によって観測された胎児心拍数や子宮収縮は、CTG(胎児心拍数陣痛図)によって経時的に記録されます。

以下では、CTGに現れた異常に助産師が気づかず、医師に報告しなかった注意義務違反を認めて、被告におよそ5662万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは帝王切開による出産を経験していましたが経腟分娩を希望しており、陣痛が生じていない状態で破水したため3月21日に入院しました。

同日の午後5時30分頃、陣痛が生じはじめました。翌日である3月22日の午前0時7分頃からは、女性Aに分娩監視装置が装着されて、出産まで外されませんでした。

分娩監視装置によって記録されたCTGには、3月22日の午前1時50分頃まで問題が見られませんでした。ところが、午前1時50分頃から、CTGに胎児が酸欠状態になっているリスクを示す「遅発一過性徐脈」などが現れました。

しかし、立ち会っていた被告病院の助産師は遅発一過性徐脈などの異常に気づかなかったため、医師に報告しませんでした。また、午前3時15分頃に分娩室に到着した被告病院の医師は、自分が到着するまでのCTGを確認しませんでした。

被告病院の医師は、午前4時頃に超音波検査を行い、胎児の心拍数が低下していることを確認して緊急帝王切開の施行を決めました。ただし、結果的には午前4時16分頃、吸引分娩や胎児圧出法によって娩出に至りました。

生まれた子供Bは重度新生児仮死の状態でした。後日、脳性麻痺により身体障害者等級1級の認定を受けました。

なお、子供Bは2歳のときに死亡しましたが、脳性麻痺と死亡の因果関係については裁判で主張されておりません。

原告らは、子供Bが脳性麻痺になったことについて、被告病院の助産師がCTGの異常を医師に報告しなかった注意義務違反があるなどとして、被告に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、3月22日の午前1時50分以降のできるだけ早い段階で、被告病院の助産師が医師に対してCTGに異常が現れていることを報告していれば、女性Aが帝王切開を経験しており子宮破裂のリスクがあること等から、医師は遅くとも2時40分から2時50分頃までには帝王切開を行うと決定していたはずだと指摘しました。

その上で、帝王切開の決定から実施までに時間がかかったとしても、胎児の状態が顕著に悪くなった午前4時頃より前に胎児を娩出することが可能であったとして、脳性麻痺を回避することができた高度の蓋然性があることを認めました。

以上のことから、裁判所は助産師がCTGに現れた異常をすぐに医師へ報告しなかった注意義務違反と、子供Bが脳性麻痺になったこととの因果関係を認めて、被告に対しておよそ5662万円の賠償を命じました。

なお、産科医療補償制度による補償金1320万円は賠償から差し引かれています。

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