無痛分娩のために硬膜外麻酔を行おうとしたところ、くも膜下腔まで針を刺してしまい、分割注入するべき麻酔を一度に注入したために妊婦が遷延性意識障害となり、生まれた子供は約6年後に死亡した事件

判決京都地方裁判所 令和3年3月26日判決

無痛分娩とは、麻酔をかけることによって痛みをやわらげながら行われる出産のことです。欧米では出産方法として普及しており、日本でも今後は増えていく可能性があります。

無痛分娩のときには、痛みをやわらげる方法として基本的に硬膜外麻酔を行います。硬膜外麻酔とは、背中に針を刺して、脊髄を包んでいる硬膜の外側にあるスペース(硬膜外腔)にカテーテルを入れて麻酔薬を注入する方法です。

妊婦が出血の止まりにくい体質である場合等、硬膜外麻酔が使えないケースでは、点滴による麻酔やガス麻酔を用いることもあります。

無痛分娩による出産は、出産時の痛みを抑えられるため恐怖心も緩和できることがあります。また、妊娠に伴って高血圧になってしまう「妊娠高血圧症候群」である妊婦については、無痛分娩によって胎児の血流が良くなる可能性がある等のメリットが挙げられます。

ただし、無痛分娩と呼ばれているものの、痛みが完全になくならないことが多く、人によっては強い痛みを感じることもあります。

また、出産が長引いてしまって吸引分娩などを利用することになるケースがあります。

以下では、医師が硬膜外麻酔の手技を誤った過失を認めて、被告におよそ3億円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは破水して入院し、2日後に分娩室に入室しました。

被告診療所の医師は、硬膜外麻酔のために女性Aに針を刺しましたが、針の先端をくも膜下腔まで到達させてしまいました。さらに、カテーテルから麻酔を分割して注入するべきところ、麻酔を一度に注入してしまったため、女性Aは心肺停止の状態になってしまいました。

女性Aは救急車で他院に搬送されて、帝王切開により子供Bを出産しましたが、子供Bは有効な自発呼吸ができない状態に陥っており、出産から約6年後に死亡しました。

また、女性Aは遷延性意識障害(いわゆる植物状態)となり、症状固定(治療しても回復が見込めない状態)となりました。

原告らは、被告診療所の医師がカテーテルを硬膜外腔に留めて麻酔薬を分割注入する義務に違反したなどとして、被告に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

被告が原告から主張された義務違反の内容を争わず自身の過失を認めたため、裁判所の判断は、損害額について多くが占められています。

その上で、次の費用等を損害として認めました。

【女性Aと子供Bに共通する損害】

  • ・女性Aの母親の航空券代金(6万9390円)

【女性Aの損害】

  • ・付添看護費用(212万円)
    ※病院の看護体制が十分であっても付き添いは必要だったと認められました。
  • ・将来介護費(1億2901万1148円)
    ※女性Aの母親や夫が自力で介護できなくなるとされた時点からは増額が認められました。
  • ・傷害慰謝料(343万円)
  • ・後遺障害慰謝料(2800万円)
  • ・入院雑費(39万7500円)

【子供Bの損害】

  • ・付添看護費用(761万6000円)
    ※病院の看護体制が十分であっても付き添いは必要だったと認められました。
  • ・自宅看護費用(1135万5000円)
  • ・死亡による逸失利益(2766万5948円)
  • ・傷害慰謝料(440万円)
  • ・後遺障害慰謝料および死亡慰謝料(2800万円)
  • ・入院雑費(142万8000円)

上記の他、弁護士費用(母親Aは1300万円、子供Bは300万円)も損害として認められています。

そこから、次の金銭について損益相殺されました。

  • ・高額療養費還付金
  • ・障害共済年金
  • ・産科医療補償制度に基づく補償金

以上により、女性Aの損害は約2億4277万円、子供Bの損害は約5517万となり、被告に対して約3億円の賠償を命じました。

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