稽留流産した女性に子宮内容除去術を施行したところ取り残しがあり、経腟超音波検査を繰り返しても発見できなかったこと等について医師の義務違反を認めなかった事件

判決東京地方裁判所 令和2年1月30日判決

稽留(けいりゅう)流産とは、胎児が死亡した状態で子宮内に留まっており、母体には出血や腹痛等の症状が現れないものです。これに対して、出血や腹痛等があり、死亡した胎児が子宮の外に出る流産を「進行流産」といいます。

稽留流産では、経過観察が行われる場合もありますが、「子宮内容除去術」によって子宮内に残った組織を取り出すことが多いです。子宮内容除去術では、慎重に行っても内容物の取り残しが発生してしまうことがあります。取り残しがあっても自然に排出されるケースもありますが、再手術が必要となるケースもあります。

以下では、稽留流産のため子宮内容除去術を受けた女性の子宮内に取り残しがあり、それを検査で発見できなかったこと等について医師の義務違反が認められず、原告の請求が棄却された事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、被告クリニックを受診して妊娠が確認されましたが、子宮外妊娠(異所性妊娠)のリスクを指摘され、11月21日に再診したときに稽留流産と診断されました。翌日に、吸引器で子宮内容物を吸引する方法で子宮内容除去術が行われ、経腟超音波検査によって取り残しは確認されませんでした。

その後、女性Aは経過観察のために被告クリニックを何度も受診して、生理が来ないことや、以前の流産のときに取り残しがあったこと等を訴えました。被告クリニックでは経腟超音波検査などが繰り返し行われましたが、子宮内の取り残しは確認されませんでした。

流産の翌年の2月9日、女性Aは他のクリニックを受診して経腟超音波検査を受けたところ、子宮内に15mm大の肥厚が確認されて病院を紹介されました。

同日、女性Aは紹介された病院に緊急入院して再度の子宮内容除去術を受け、組織片が摘出されました。病理組織診断により、その組織片は胎盤組織と診断されました。

原告は、被告クリニックの医師は子宮内容物の除去する義務や取り残しを発見する義務等に違反したなどとして、被告らに損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、原告が主張した次の義務違反について検討しました。

  1. ①子宮内容物の除去義務違反
  2. ②子宮内容物の取り残しの発見義務違反
  3. ③精密検査実施義務違反または転送義務違反
  4. ④顛末報告義務違反

①について、子宮内容除去術では常に子宮内容物を取りきれるわけではないため、取り残しがあっても手技に過失があったとは認められず、取り残してはいけない内容物の大きさを示す的確な証拠もないため義務違反を認めませんでした。

②について、経腟超音波検査のときに医師が行うべきであったとする行為が特定されておらず、原告が主張した、360度の検査範囲を網羅する連続写真を撮影するべきであるという証拠もないため義務違反を認めませんでした。

③について、女性Aには月経が再開しないことや過去に取り残しがあったこと等の事情があり、取り残しを疑える事情はあったものの、いずれも決定的な事情ではなく、炎症反応や出血がないといった取り残しを否定する事情もありました。そのため、CT検査やMRI検査等を行うこと、または高次医療機関を紹介することは医師の裁量に委ねられると判示して、義務違反を認めませんでした。

④について、医師が謝罪を求められたときに女性Aに対して行った説明は断定的であったり、結果的には望ましくない説明であったりしたものの、医学的に誤りだったとまでは言えず、医療ミスを指摘されて謝罪を求められていた状況等を考慮して、術後経過について適切に説明する義務に違反したと認めませんでした。

以上のことから、原告が主張した義務違反はいずれも認められず、原告の請求には理由がないとして請求を棄却しました。

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