帝王切開後に医師が、深部静脈血栓症の疑いがあったのにも関わらず、高次医療機関に転院させるべき注意義務を怠ったことにより、患者が肺血栓塞栓症で死亡して、損害賠償の請求が認められた事件

判決宮崎地方裁判所 平成30年9月12日判決

深部静脈血栓症とは、ふくらはぎや太もも、骨盤内の筋肉などの間にある静脈に血栓(血の塊)ができて血管が詰まる病気です。分娩後の6~8週間は動く機会が減るため静脈に血栓が出来るリスクが高くなります。

主な症状としては、片方の足全体やふくらはぎが腫れ、痛みなどが現れます。発見が遅れて治療をせずに放置していると、血栓が肺の血管に移動して詰まってしまい、肺血栓塞栓症を引き起こして突然呼吸困難や胸痛などの症状が現れます。重症になると、心肺停止となり突然死に至ることもあります。深部静脈血栓症の疑いがあれば、早期診断から血液が固まらないようにする薬を投与するなどとして適切な治療を行うことが重要となります。

以下では、深部静脈血栓症の疑いがあったにも関わらず、適切な処置をせずに肺血栓塞栓症を発症し患者を死亡させたことについて、病院に過失があると認められて約1億3000万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは、里帰り出産のために被告B病院を受診し帝王切開術にて子供Cを出産しました。出産2日後、女性Aはベッドの上で過ごしていたところ、医師が下肢に軽度の浮腫が生じていることを確認して診療録へ記載しました。翌日、看護師は2回にわたり女性Aの左下肢に浮腫があることを発見して再び診療録へ記載しました。そして、その日の深夜に女性Aはナースステーション前の廊下で倒れているところが発見されて、気分が悪いなどと訴えていました。次第に女性Aの意識レベルは低下していき、心臓マッサージが行われながらD病院へ搬送されました。病院に到着したころには、心肺停止状態で心肺蘇生法が施されている状態でした。すぐさまD病院にて治療が行われましたが、女性Aは蘇生することなく、肺血栓塞栓症と診断されて死亡が確認されました。

原告らは、下肢の浮腫が発見された際に腹部静脈血栓症を疑わずに、適切な処置を取らなかった過失があるとして、被告病院に対し損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、帝王切開後は妊婦が開腹手術を受けることにより血管内に障害が発生して、より深部静脈血栓症を発症しやすくなるため血栓予防に努めることが重要であることや、左下肢の浮腫が見受けられた場合は、深部静脈血栓症を疑う重要な症状の一つであると、産婦人科ガイドラインや複数の文献に記載されていることを指摘し、一般的な産科医師の間でも本件の危険性が十分に認知されているものと判断しました。

以上のことを踏まえて、女性Aの左下肢に浮腫が発生した時点で、被告B病院は深部静脈血栓症を疑い、高次医療機関に転院させるべき注意義務があったと認められました。また、注意義務を尽くしていた場合、女性Aの救命可能性は高いと認められて、注意義務違反と女性Aの死亡との間の因果関係が認められました。

結果、裁判所は被告B病院に対して、約1億3000万円の賠償を命じました。

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