胎児発育不全(FGR)であった新生児の血糖値を医師が測定しなかった注意義務違反と、胃出血により孔脳症・脳性麻痺になったことの因果関係が認められた事件

判決神戸地方裁判所 平成30年2月20日判決大阪高等裁判所 平成31年4月12日判決

胎児発育不全(FGR)とは、妊娠週数から推定される大きさと比べて、胎児が明らかに小さいことです。胎児が小さくなってしまう原因として、胎児の染色体異常や胎内感染、胎盤の血管の詰まり、母体の高血圧や糖尿病、子宮の奇形等、様々なものが挙げられます。ただし、体質的に小さいだけで疾患等のない胎児についてもFGRと判定されることがあります。

FGRであった新生児は、新生児低血糖を発症しやすくなっています。これは、出生後に母体からの糖の供給が止まると、通常の新生児であれば血糖値を上昇させる機能が働きますが、FGRのために肝臓のグリコーゲンが不足していると血糖値が上がらなくなるからです。このとき、対応が遅れると回復不能のダメージを受けてしまうため、血糖値が下がっていたら症状がなくてもブドウ糖の投与が必要となります。

なお、FGRのことを以前は子宮内胎児発育遅延(IUGR)と呼んでいました。

以下では、FGRであった新生児の血糖値を測定しなかった注意義務違反と脳性麻痺となり後遺障害が生じた因果関係を認めて、被告におよそ1億4533万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

子供Aは、12月18日の午前8時12分頃に自然分娩で生まれましたが、妊娠期間が40週5日でありながら体重は2124グラムでありFGRであったことが確認されました。

子供Aには、ビタミンKが不足するのを予防するためにK2シロップが与えられました。また、母乳とミルクによる授乳が行われました。

12月21日の午前8時50分頃、子供Aは茶褐色状の嘔吐をして顔面蒼白となり、被告診療所の医師Bが気管内を吸引しましたが、子供Aは吸引中に心肺停止となり、心臓マッサージを受けた後で転院し、新生児集中治療室(NICU)に入院しました。

転院した後に行われた検査によって、子供Aは胃出血に伴う出血性ショック、低血糖症、高カリウム血症等と診断されて治療が行われましたが、頭部CT検査により脳の壊死が認められ、孔脳症・脳性麻痺になったと診断されました。

原告は、被告診療所の医師が子供Aの出生直後から血糖値測定を定期的に行う注意義務を怠ったなどとして、被告に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

【原審】

裁判所は、IUGR児は低血糖を発症しやすく、低血糖は神経障害を生じ得る状態であることから、医師Bは子供Aの出生直後より定期的に血糖値測定を行う注意義務があったと指摘しました。その上で、医師Bは血糖値を1回も測定せずブドウ糖の投与等も行わなかったため、注意義務に違反していたと認めました。

しかし、子供Aが吐いたものは茶褐色状で新鮮血ではなく、出血が大量であったかは疑わしい。胃出血の原因がビタミンK不足による「新生児メレナ」である可能性が排除できない。低血糖が原因で胃出血が発生したと認めるに足りる証拠がなく、FGRであったことや分娩等のストレスによって胃出血を発症した可能性が排除されていないと指摘して、B医師の注意義務違反と子供Aの後遺障害との間に因果関係を認めず、病院の過失を認めながらも原告の請求を棄却しました。

【控訴審】

裁判所は、原審と同様に、医師Bが血糖値測定を行わなかった注意義務違反を認めました。その上で、FGRであった新生児は低血糖症が高頻度で認められることや、子供Aの血糖値が転院先でも容易に回復しなかったことから、子供Aは転院前から低血糖状態であったと認定しました。

なお、子供Aの転院前の血糖値を推定するためのデータは十分でないものの、それは医師Bの注意義務違反が原因であり、子供Aの不利益になるような推定をすることは条理に反する旨を判示しています。

そして、胃内の出血は胃液で変色するため大量出血を否定できない。低血糖は胃出血の原因になる。ミルクアレルギーが胃出血の原因になったと認めることはできない。高カリウム血症が心肺停止の原因とは言えないとしました。

以上のことから、B医師の注意義務違反と子供Aの後遺障害との間の因果関係を認めて、およそ1億4533万円の請求を認容しました。

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