判決東京地方裁判所 平成16年3月29日判決
臍帯巻絡とは、「さいたいけんらく」と読み、臍帯(へその緒)が胎児の体に巻きついてしまうことです。子宮内で胎児が動くことによって生じ、どの胎児であっても発生するリスクがあります。多くの場合では1回だけ巻きつきますが、2回以上の巻きつきが生じるケースもあります。
臍帯巻絡を予防することはできず、発生しても解消する方法はありません。しかし、臍帯巻絡は珍しいことではなく、幾重にも巻きついていなければ、胎児に深刻な影響が生じるリスクは高くありません。また、臍帯巻絡があっても自然分娩を行うことは可能です。
ただし、胎児の心拍などに異常が生じたときには、状況を継続的に観察して、必要に応じて緊急帝王切開などを行います。
以下では、医院の医師らが分娩監視装置を使用しなかったことについて、分娩監視義務に違反した過失が認められず、原告の請求が棄却された事件を紹介します。
妊娠していた女性Aは出産の予定日を経過しても出産せず、被告医院に入院することになりました。
入院した日には、物理的な刺激によって出産を促すオバタメトロが使用されましたが、翌日の朝には抜去されています。
オバタメトロを抜去した後で、子宮を収縮させて陣痛を誘発する作用のあるプロスタグランジンが投与されました。
プロスタグランジンの投与が終わった後で、午後6時30分頃に看護師Bが女性Aの病室を訪れました。また、午後8時30分頃にも看護師Bは女性Aの病室を訪れて、胎児の心拍数を確認しています。どちらのときにも、女性Aには5分から10分程度の間隔で陣痛がありました。
さらに翌日(入院した2日後)の午前2時ころ、看護師Cが女性Aの病室を訪れて胎児の心拍を聴取しようとしましたが、看護師Cは心拍を確認できませんでした。その後、女性Aは胎児を死産しています。
原告は、上記死産について、被告医院の医師らが分娩監視を行う義務に違反した過失があるとして、被告らに損害賠償を請求しました。
裁判所は、臍帯巻絡の他に胎児が死亡した原因となり得る症候がなかったこと等から、死亡原因は臍帯巻絡であったと推認しました。
また、入院した翌日の午後8時30分の時点で胎児が死亡していたのではないかという原告の指摘について、陣痛が継続していたこと等から考えにくいとして、この時点では胎児に異常が生じていなかったと認定しました。
原告は、被告医院の医師らが分娩監視をする義務があったことの根拠として、オバタメトロには臍帯下垂や臍帯脱出が生じるリスクがあることを主張しました。しかし、本件におけるオバタメトロの使用方法では、そのようなリスクは低かっただけでなく、分娩監視装置を使用すると妊婦に負担となることから分娩監視をする法的義務を否定しました。
また、原告は、プロスタグランジンには過強陣痛が生じるリスクがあることも主張しました。しかし、本件が発生した時点のプロスタグランジンの能書(薬の添付文書)には分娩監視装置の使用を義務づける記載はなく、投与した薬の85~95%が5時間以内に排泄されることから、投与が終了してから3時間後である午後8時30分には薬の作用が消失していたと認めて、それ以降に分娩監視をする法的義務を否定しました。
以上のことから、裁判所は被告の分娩監視義務違反を否定して、原告の請求を棄却しました。
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