帝王切開後にめまいや呼吸苦などを訴え、脈拍が1分に140回になった女性が遷延性意識障害に陥ったことについて、すぐに救急搬送の手配をしなかった過失による高額な賠償を認めた事件

判決東京地方裁判所 平成15年10月9日判決

帝王切開とは、経腟分娩が難しい場合や母体・胎児に緊急性の高い問題が生じた場合などに、腹壁と子宮を切開する方法で出産することです。逆子の場合(骨盤位)などには計画的に用いられますが、分娩が予定外に長引いてしまい母子にリスクのある場合などには緊急帝王切開となることもあります。

特に常位胎盤早期剥離のような疾患では大量出血するケースがあるため、子宮摘出術などによって対応することもあります。

以下では、帝王切開後の出血により女性が遷延性意識障害(いわゆる植物状態)に陥ったことについて、医院に過失が認められ被告らに2億円を超える賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは帝王切開により出産した日の午後1時15分に病室に戻りましたが、持続的なめまいや軽度の呼吸苦など、様々な症状を訴えていました。

午後3時5分には、質問に対してはっきりとした返答をしなくなり、午後4時には脈拍が1分に140回になりました。

午後4時頃、担当医師の1人が女性Aを救急病院に搬送することを提案しましたが、他の医師が検査を指示しました。午後4時40分の腹部エコー検査では、出血は確認されませんでした。

併せて、午後4時40分頃には救急病院への搬送の手配を始めて、午後5時10分に医療センターへの搬送を依頼し、午後5時50分頃に到着しました。

医療センターで女性Aの開腹手術を行ったところ、巨大な血腫が形成されており、子宮切開創から出血していました。止血は困難であったため子宮を全摘出し、手術が終了するまでの総出血量は5970グラムに達しており、女性Aは低酸素脳症により遷延性意識障害になりました。

原告らは、午後4時頃には女性Aの容態が異常であったことは明らかであり、救急搬送が遅れた過失があると主張して被告に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、女性Aが帝王切開の直後から出血しており、午後3時5分までの症状は腹腔内出血を疑わせるものであったとしました。

また、午後4時には1分に140回の脈拍があったことから、遅くとも午後4時頃には女性Aの腹腔内出血を疑って救急病院への搬送の手配を始めるべきであったとしました。

しかし、実際に救急搬送の手配を始めたのは午後4時40分頃だったので、手配が遅れたことについて過失があるとしました。

さらに、因果関係についても、午後4時頃に救急搬送の手配をしていれば遷延性意識障害にならなかった可能性が高く、救急搬送が遅れた過失と因果関係がある旨、認定しました。

以上のことから、裁判所は被告らに2億円以上の賠償を命じました。

なお、被告らは定期金の給付を提案しましたが、原告側が一時金による賠償金の支払いを求めていたため、定期金による支払いを命じる判決をすることはできないとしています。

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