出生時の体重が約4100グラムであった子供について、帝王切開を行わず肩甲難産により右手に麻痺が残ったことについて、帝王切開を行わなかった過失や手技を誤った過失を否定して賠償を認めなかった事件

判決東京地方裁判所 平成15年9月19日判決

巨大児とは、目で見て分かるような異常がなく、出生体重が4000グラム以上の胎児のことです。巨大児の出産は順調に進まない確率が上がり、肩甲難産のリスクが高まります。

肩甲難産とは、分娩の途中で子供の肩が引っかかってしまい、出産するのが難しい状態のことです。肩甲難産でなければ軽い力を加えるだけで出産させることが可能ですが、肩甲難産であると出産させることが難しく、吸引分娩や帝王切開などが必要となります。

また、肩甲難産である子供に吸引分娩などを行うと、生まれた子供の麻痺や骨折、あるいは母親の会陰裂傷といった影響が生じるおそれがあります。

巨大児のリスクを上げる要素として母親の糖尿病や肥満、子供を産んだ経験があること、巨大児を出産した経験があること、妊娠42週以降の出産であること、胎児が男性であること等が挙げられます。これらの中で、母親の糖尿病や巨大児の出産経験が、特にリスクを上げるとされています。

以下では、巨大児の出生において肩甲難産となり、生まれた子供の右手に知覚障害や運動障害などの後遺症が発生したことについて医師の過失を否定し、原告の請求が棄却された事件を紹介します。

事案の概要

妊娠していた女性Aは、出産予定日とされていた10月15日を経過しても出産に至らず、同月23日、被告病院に入院しました。

同月25日に陣痛が始まりましたが、児頭の下降が進行しなかったため吸引分娩などにより出産したところ、生まれた子供Bの右上腕に麻痺が生じてしまいました。その後、子供Bはリハビリを受けていますが、完全には回復せず後遺障害診断書が作成されています。

なお、子供Bは出生体重が4123グラムであり巨大児に該当しますが、出産の10日前に超音波検査で推定した体重は約3500グラムでした。

原告(母親Aが代理した子供B)は、被告病院には帝王切開を行わなかった過失や、子供Bを娩出させるときの手技を誤った過失があると主張して、被告病院を設置運営している学校法人である被告に対して損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、以下の点から病院が胎児が巨大児であること予測するのは困難であると認定しました。

  • ・出産予定日の段階で行われた超音波診断では、子供Bの体重が 3529グラムと推定されていたこと
  • ・42週を超えると巨大児の可能性が高まるが妊娠期間が41週であったこと
  • ・女性Aが、糖尿病でなく巨大児の出産経験もないこと

それを前提として、胎児が巨大児であり肩甲難産が発生するリスクを考えて帝王切開する義務は到底認められないとしました。

加えて、帝王切開は母親が死亡するなどのリスクを上げるだけでなく、産後の回復に時間がかかる等のデメリットも存在するため、胎児が大きくても直ちに帝王切開を行うべきであるとはされていないことを指摘して、被告病院には帝王切開を行う義務がなかったとしました。

また、子供Bに生じた麻痺は分娩時に上腕神経が伸びたことにより発生したと考えるのが合理的としながらも、肩甲難産の対処法とされる処置を正しく行っても腕の神経の麻痺が生じるリスクがあることや、児頭がある程度出た段階では子供が死亡することなどを防ぐために鎖骨を折ってでも娩出させるべきだとされていること、肩甲難産が発生したときに帝王切開を行うのは現実的でないという見解もあること等から、子供Bを娩出させるための手技や帝王切開を行わなかったことについて過失はなかったとしました。

以上のことから、裁判所は被告病院の医師らに過失があることを否定して、原告の請求を棄却しました。

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