監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
母親のお腹の中で育つ赤ちゃんの様子を知るために、心拍を確認するのはとても大切なことです。
心拍数のチェックによって、赤ちゃんが順調に成長しているか、流産のリスクがないかなどを判断する手がかりになるからです。
この記事では、赤ちゃんの心拍数の正常値や、心拍数に問題のあるケース、心拍を確認する方法、心拍数の問題による赤ちゃんへの影響等について解説します。
目次
心拍数とは、心臓が拍動する回数のことです。赤ちゃんの心拍数の正常値は、1分間に110~160回とされています。
ただし、赤ちゃんの通常時の心拍数は、妊娠週数によって異なります。妊娠9週頃は1分間に170〜180回程度であることが多く、妊娠16週頃には150回程度になることが多いです。
また、個人差もあるため、正常値から外れていても、必ず異常があるというわけではありません。
赤ちゃんの心拍は、妊娠初期の段階から確認できるようになります。一般的には、妊娠5週目から6週目頃に、超音波検査によって心拍が確認できることが多いです。ただし、排卵や着床のタイミングによっては、妊娠7週目頃になってようやく確認できるケースもあります。
また、妊娠12週目頃になると、ドップラー聴診器を使って赤ちゃんの心音を耳で聞くことも可能になります。
赤ちゃんの心拍数は、通常は1分間に110〜160回程度が正常とされていますが、この範囲を大きく外れる場合には、何らかの異常が起きている可能性があります。
赤ちゃんの心拍数に問題があるケースとして、主に以下のようなものが挙げられます。
赤ちゃんの頻脈とは、1分間の心拍数が160回を超えた状態が続くことです。
頻脈の原因としては、胎児不整脈や母体・胎児の感染症、特に絨毛膜羊膜炎などの子宮内感染が挙げられます。絨毛膜羊膜炎は、赤ちゃんを包む膜に細菌が感染して炎症を起こすもので、頻脈のほかに早産のリスクも高まるため注意が必要です。
また、胎児の頻脈は一時的なものである場合もありますが、長時間続くと赤ちゃんの心臓に負担がかかり、酸素不足などのリスクが生じることがあります。そのため、医師は超音波検査や胎児心拍モニタリングなどを通じて、心拍の状態を慎重に観察します。
治療としては、抗菌薬の投与や、分娩のタイミングを調整するなどの対応が取られることがあります。
赤ちゃんの徐脈とは、1分間の心拍数が110回未満の状態が続くことです。原因としては、へその緒が圧迫されたことや胎盤早期剥離、妊娠高血圧症候群などが疑われます。
心拍数が低下しており、赤ちゃんに十分な酸素が届いていない状態が続いてしまうと、脳性麻痺などを引き起こすおそれがあります。
徐脈が発生しているときには、母親を横向きに寝かせたり、母親に酸素を投与したり、子宮の収縮を抑制する薬を投与したりします。場合によっては、帝王切開などによる出産も行われます。
赤ちゃんの心拍数が増減を繰り返し、安定しない場合には、胎児機能不全が疑われます。
胎児機能不全とは、お腹の中の赤ちゃんが安全だと言い切れない状態のことです。赤ちゃんやへその緒、胎盤等に異常が生じているおそれがあるため、慎重に確認しなければなりません。
医師は、胎児心拍モニタリング(NST)などの検査を通じて、赤ちゃんの心拍の変動を詳しく観察します。
異常が認められた場合には、母体の体位を変える、酸素を投与する、子宮収縮を抑える薬を使うなどの処置が行われます。必要に応じて、帝王切開による早期の出産が検討されるケースもあります。
赤ちゃんの心拍を確認しようとしても、確認できない場合があります。このようなケースにおいて、妊娠6週目頃であれば排卵期のずれの影響が考えられるでしょう。
しかし、それから1~2週間後であっても心拍が確認できない場合には、赤ちゃんが子宮内で亡くなる「稽留(けいりゅう)流産(りゅうざん)」のリスクを考える必要があります。
稽留(けいりゅう)流産(りゅうざん)であれば、完全な流産を待つか、手術によって子宮内容物を取り出す治療を行うことになります。
赤ちゃんの心拍を確認するために、主に用いられる検査方法は超音波検査です。超音波検査によって、心拍を画像で診られるため、赤ちゃんの成長の様子や異常の有無をチェックできます。
心拍を音で確認したい場合には、ドップラー聴診器が用いられます。
出産予定日が近くなってきたら、時間をかけてノンストレステスト(NST)を行うこともあります。
赤ちゃんの心拍を確認するために、最もよく使われる方法が「超音波検査」です。妊娠初期(妊娠12週頃まで)では、膣からプローブ(超音波を発する機器)を挿入して、子宮や卵巣、胎児の状態を詳しく観察します。
妊娠中期以降になると、お腹の表面にジェルを塗り、プローブを当てて赤ちゃんの様子を確認する検査が主に行われます。この方法では、赤ちゃんの心拍だけでなく、体の動きや位置、胎盤の状態なども確認できます。
また、妊娠12週頃からはドップラー聴診器を使って、赤ちゃんの心音を耳で聞くことも可能です。心音のリズムや強さを確認して、赤ちゃんが元気に育っているかどうかを判断します。
ノンストレステスト(NST)とは、赤ちゃんの心拍数と母親の子宮の収縮を測定することによって、赤ちゃんが元気かどうかを確認する検査です。ノンストレステストを行うときには、母親のお腹に分娩監視装置を取りつけて記録します。所要時間は20分~40分程度です。
一般的には、妊娠36週頃に行われることが多いです。赤ちゃんに心配な事情がある場合には、もっと早く行われるケースもありますが、妊娠32週未満では赤ちゃんが未熟であり正確な検査はできないので、それ以降に行われることが多いです。
なお、陣痛が来てから行う、胎児心拍数モニタリングと子宮収縮(陣痛)圧を経時的に記録したものはCTGと呼ばれています。
赤ちゃんの心拍数に異常がある場合、様々な疾患のリスクが考えられます。心拍数が安定しない状態が続くと、赤ちゃんが十分な酸素や栄養を受け取れていない可能性があり、注意が必要です。
たとえば、心拍数が遅い「徐脈」の状態が長く続くと、赤ちゃんの脳に酸素が届きにくくなり、脳性麻痺などの後遺症が残るリスクが高まります。また、心拍が確認できない場合には、流産や胎児死亡の可能性も考えられます。
まずは心拍数の問題に気づいて、なるべく早く必要な対応を行わなければなりません。
赤ちゃんの心拍に異常があるにもかかわらず、医療機関が気づかず、適切な対応を取らなかった場合、医療過誤につながる可能性があります。
たとえば、胎児の心拍数が急激に低下しているのに見逃されたり、必要な検査や処置が行われなかった場合、赤ちゃんに後遺症が残ったり、最悪の場合は命に関わることも考えられます。
医療過誤が疑われるケースでは、損害賠償を請求できる可能性があります。実際に、胎児心拍モニタリング(NST)などの検査結果を正しく読み取れなかったことが原因で、赤ちゃんに重い障害が残った事例も報告されています。
万が一、医療機関の対応に疑問を感じた場合は、医療過誤に詳しい専門家に相談するのも選択肢のひとつです。
胎児心拍異常の見落としにより、赤ちゃんに重度の後遺障害が生じた裁判例について、以下で解説します。
平成5年(ワ)231号 大阪地方裁判所 平成9年10月3日判決
本件は、破水した母親に陣痛促進剤が投与され、赤ちゃんが過強陣痛による低酸素性虚血性脳症となり、重度の脳性麻痺が後遺障害として残ったために、後にその脳性麻痺を原因とする窒息により死亡した事案です。
裁判所は、陣痛促進剤の投与後の胎児心拍数について、過強陣痛による持続性徐脈が発生しており、持続性徐脈が回復した後にも典型的な遅発一過性徐脈を反復していたと指摘しました。また、胎児が低酸素状態に陥ったときに起こる胎便吸引症候群を合併していたことからも、赤ちゃんの低酸素症の存在は明らかだとしています。
さらに、被告病院の医師が遅発一過性徐脈を見落とし、なんらの措置を講じなかった過失を認め、陣痛開始までに胎児機能不全の徴候がなかったこと等から、医師の過失と赤ちゃんの脳性麻痺の因果関係を認定しました。
そして、赤ちゃんの逸失利益や本人および両親の慰謝料、弁護士費用等として、約5458万円の請求を認容しました。

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