監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
羊水には、赤ちゃんを外部の衝撃や温度変化から守る働きだけでなく、赤ちゃんが飲み込むことで肺や消化器官の発達を助けるという重要な役割も有しています。
しかし、赤ちゃんが母体内で排便すると、羊水が胎便によって濁ってしまうことがあります。
この濁った羊水を赤ちゃんが吸い込むと、「胎便吸引症候群」と呼ばれる呼吸障害を引き起こす可能性があり、注意が必要です。
本記事では、胎便吸引症候群の原因や症状、診断方法、治療方法、赤ちゃんへの影響等について解説します。
目次
胎便吸引症候群とは、赤ちゃんが母体内で排便し、その胎便を含んだ羊水を吸い込むことで発症する呼吸障害です。一般的に妊娠36週以降に発症しやすいとされています。胎児は通常、妊娠後期になると腸の働きが活発になり、排便反射と呼ばれる仕組みが整ってくるためです。
妊娠37週から41週の間に排便する赤ちゃんは約10%程度とされており、妊娠期間がさらに進むと15〜20%程度に増加する傾向があります。
ただし、排便したすべての赤ちゃんが胎便吸引症候群を発症するわけではなく、実際に症状が現れるのは約5%程度です。胎便の量や濃度、吸い込んだタイミングなどによって、症状の重さも異なります。
赤ちゃんが母体内で排便する主な原因は、体内の酸素が不足する「低酸素状態」に陥ることです。
低酸素状態になる背景には、胎盤の機能が低下して酸素や栄養がうまく届かなくなることや、陣痛による強いストレス、へその緒が首や体に巻きついて圧迫されること、さらには母体や胎児の感染症など、さまざまな要因が考えられます。
低酸素状態になった赤ちゃんは呼吸が苦しくなり、腸の動きが活発になって排便してしまうことがあるのです。
胎便吸引症候群を発症した赤ちゃんには、さまざまな呼吸器系の異常が見られます。 代表的な症状としては、
などがあります。
重症の場合には、肺に空気が漏れる「気胸」や、細菌感染による「肺炎」、肺からの出血などが起こるといったケースもあります。おしっこの色が濃くなるなど、全身の異常が現れる例もあるため、早期の対応が重要です。
胎便吸引症候群の診断は、出産時の状況や赤ちゃんの呼吸状態をもとに行われます。
まず、出産時に羊水が緑色や茶色に濁っている場合、胎便が混ざっている可能性があるため注意が必要です。羊水の濁りが確認された場合は、赤ちゃんの呼吸状態をすぐに観察し、必要に応じて気管挿管を行い、胎便を吸引します。
さらに、胸部X線検査によって肺の状態を確認します。肺に影が見られる場合は、無気肺や肺炎などの合併症が疑われます。また、血液検査では、酸素不足(低酸素血症)や二酸化炭素の蓄積(高二酸化炭素血症)、血液が酸性に傾く状態(アシドーシス)などを調べることで、赤ちゃんの全身状態を把握します。
これらの検査結果を総合的に判断し、胎便吸引症候群かどうかを診断します。
胎便吸引症候群を治療するためには、主に以下のような処置を行います。
胎便吸引症候群を発症しても、適切な治療を受ければ、赤ちゃんが元気に育つ可能性は十分にあります。しかし、治療しても、一部の赤ちゃんには以下のような影響が残るおそれがあります。
気管支喘息
胎便吸引症候群により、新生児のときに肺に強い炎症が起こってしまうと、乳幼児期に気管支喘息を発症するおそれがあります。
低酸素脳症
胎便吸引症候群で脳への酸素供給が不足すると、脳細胞の一部が死滅することがあります。その影響で、軽度な知能低下やけいれん、麻痺などを発症するおそれがあります。
出産時に羊水が緑色に濁っていれば、赤ちゃんが胎便を吸い込んでしまっている可能性があるため、胎便吸引症候群を疑い、速やかに吸引処置や呼吸管理などの対応が必要です。
しかし、医療機関側が胎便の存在を見落としたり、必要な処置を怠ったりした結果、赤ちゃんに重い後遺症が残ったり、最悪の場合死亡してしまうことがあります。こうしたケースでは、医師の判断ミスや対応の遅れが「医療過誤」として認定される可能性もあるでしょう。
医療過誤が認められると、赤ちゃんやご家族は損害賠償請求を行って、慰謝料や治療費、将来の介護費用などの補償を求めることが可能です。医療過誤の有無は、カルテや分娩監視記録などの証拠をもとに慎重に判断されます。
医師の過失によって赤ちゃんが胎便吸引症候群を発症し、後遺障害を負った末に死亡した事例について、損害賠償請求が認められた裁判例をご紹介します。
平成15年(ワ)3742号 福岡地方裁判所 平成18年1月13日判決
本件は、出生後に新生児重症仮死、胎便吸引症候群等と診断された赤ちゃんが、脳性麻痺などの後遺障害を負って、後に気管狭窄により窒息死した事案です。
赤ちゃんが新生児仮死となった原因として、赤ちゃんに先天性疾患がなかったこと等から、継続した胎児機能不全が原因であり、胎児機能不全によって新生児仮死や胎便吸引症候群を発症して後遺障害を負ったと裁判所は判断しました。また、胎児機能不全を疑わせる所見のない分娩監視記録については、本件の母親の記録であると認めることができないとしました。
分娩監視記録によって胎児機能不全だと判断できれば、母親に体位変換や酸素投与を行う必要がありますが、それらを行った証拠がないため、被告医院の医師には赤ちゃんの異常を分娩監視記録から読み取って母親の体位変換などを行う注意義務を怠った過失があると裁判所は認めました。
さらに、被告医院の医師には赤ちゃんへの気管内挿管を施すべき注意義務があったのに、それを怠った過失があることも認めました。
そして、被告医院の医師の過失と、赤ちゃんの後遺障害および死亡との因果関係を認め、逸失利益や慰謝料、弁護士費用等として、およそ6874万円の請求を認容しました。

医療過誤のご相談受付
まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。
※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。