監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
医療過誤・医療ミスに遭い、「家族に後遺障害が残る」「家族が亡くなってしまった」、このような時、病院側からどれくらいの慰謝料を受け取れるのか?どのような損害賠償金が支払われるのか?これが、分からなければ話し合いにならないと思います。
病院側から、これが、今回の慰謝料として、○○万円支払いますと言われても、相場や計算根拠が分からない状態では、何も判断できないでしょう。
医療過誤の紛争上では、医師や病院側の過失や因果関係を中心に争われることが多く、損害賠償額の算定については横に置いておかれがちですが、医師・病院側に医療過誤があると認定された後は、慰謝料や損害賠償金の金額は非常に重要です。
以下、医療過誤・医療ミスの際の慰謝料や損害賠償金について解説します。
医療過誤と認められた場合、慰謝料が支払われますが、慰謝料は医療過誤による精神的苦しみを金銭的に評価したものとなります。慰謝料は、多々ある損害賠償項目の一つであり、事案によっては慰謝料の他にも様々な賠償を請求できる可能性があります。
日本で損害賠償の理論的な考え方は、もともと交通事故分野が中心に発展してきており、慰謝料や損害賠償については、医療過誤事件であったとしても基本的には交通事故事案と計算方法は異なりません。
ただ、基本的な考え方は変わりませんが、慰謝料や損害賠償額の算定について、医療過誤事件の特有の考え方もあります。この点は、「4 医療過誤事件の損害賠償の特殊性」で後述します。
医療過誤では、慰謝料について①入通院慰謝料②後遺障害慰謝料③死亡慰謝料の3つがあります。
入通院慰謝料とは、医療ミスが生じたり、医療過誤にあったことにより、病気や手術が必要となることで、医療過誤が無ければ本来不要な入院や通院をしなければならないといけない場合に請求します。
医療過誤による精神的損害の程度は、本来人それぞれだと考えられますが、入通院慰謝料の算出においては、精神的損害の程度を測る尺度を、病院への入通院日数や入通院期間をカウントし入通院慰謝料を算出します。
医療過誤により、患者に生じる病気や障害の程度によりますが、入通院日数の目安は以下の表のとおりとなります。
なお、医療過誤の慰謝料は、医療ミスによって生命・身体等に損害が生じていることが前提になりますので、誤診があり手間がかかった、必要のない検査を受けたという場合や、医療過誤があったけれども通院せず自然治癒した場合には、基本的に慰謝料は発生しません。
(別表1)
後遺障害慰謝料とは、医療過誤により、何らかの後遺障害が残存した場合に、その後遺障害の程度に応じた慰謝料が支払われます。
労災事故や交通事故では、後遺障害の程度に応じた等級があり、認定機関により後遺障害等級が1級~14級まで判断されるのですが、医療過誤事件でも労災事故や交通事故事件と同様の基準で後遺障害慰謝料の金額が判断されます。
ただし、労災事故や交通事故では、後遺障害等級を認定してくれる機関があるのですが、医療過誤事件では後遺障害等級を認定してくれる機関はありません。そのため、医療過誤事件では、後遺障害慰謝料の算定のため、医療過誤の被害者が事故の身体の状況に合わせて事故の後遺障害等級を明らかにしていく必要があります。
なお、後遺障害等級は、1級が最も重く等級が上がるごとに後遺障害の程度が軽くなっていきます。
後遺障害慰謝料の金額は、後遺障害等級に応じて算出されますが、最も重い1級で2800万円、最も軽い14級で110万円程度となります。
死亡慰謝料は、医療過誤により、亡くなった場合に支払われる慰謝料となります。基本的には相続人が請求することになります。
死亡慰謝料の算定をする場合には、医療過誤の被害者が、被害者の世帯の中でどのような役割をしていたかで、金額が変わるものとされています。
概ね、医療過誤の被害者が、被害者世帯の一家の支柱である場合には、慰謝料2800万円、母や配偶者の場合は2500万円、それ以外の場合は2000万円程度とされています。
ただし、医療過誤の場合には、被害者が非常に高齢な場合や、重い病を患っていることもあり、状況に応じて慰謝料の金額が減額されることが多々あります。
以上の通り、医療過誤の慰謝料には、①入通院慰謝料②後遺障害慰謝料③死亡慰謝料があるのですが、後遺障害慰謝料と死亡慰謝料を同時に受け取ることは想定されていません。
そのため、多くの場合で、医療過誤の慰謝料は、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の合算額か、入通院慰謝料と死亡慰謝料の合算額になります。
また、被害者が亡くなってしまった場合は、残された遺族固有の慰謝料も発生するため、様々な考慮が必要となります。
病院側が過失を認めているけれども、慰謝料の算定の仕方が分からないという方は、是非弁護士にご相談ください。
医療過誤における慰謝料は、被害者の精神的損害を金銭評価したものであり、様々ある損害賠償項目の一つに過ぎません。
慰謝料以外にも、請求できる損害賠償項目は以下のとおりです。
なお、下記は、代表的なものであり、その他についても医療過誤により社会的に相当性のある範囲で賠償請求の対象になり得ます。
積極損害 |
|
|---|---|
消極損害 |
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慰謝料以外の損害賠償の項目で、高額になりがちなものの一つが後遺障害逸失利益と死亡逸失利益です。
逸失利益とは、医療過誤が無ければ、本来得られたであろう利益を失ったことによる、損害です。イメージしやすいのは、会社員等で収入のある方が、医療過誤により後遺障害を負ったり、死亡してしまった場合です。医療過誤により、働けなくなり、将来の収入が減額または途絶えてしまうことをイメージしていただければと思います。
医療過誤により、後遺障害が生じた場合には後遺障害逸失利益が、死亡した場合には死亡逸失利益が請求できます。
なお、逸失利益は、会社員などの仕事をして、収入を得ている人だけでなく、主婦業をしている方や未成年の子供でも生じます。ただ、一人暮らしの方や、仕事から完全に引退している方には、逸失利益は生じません。(死亡逸失利益については、年金部分について生じます。)
それぞれの逸失利益は以下の場合に請求できます。
後遺障害逸失利益の計算方法は下記の通りとなりますが、死亡逸失利益の場合は、下記に加え、亡くなったことにより生活費がかからなくなるという考えのもと、生活費控除率というものが引かれてしまいます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間×ライプニッツ係数
被害者が亡くなった場合、被害者の将来収入として死亡逸失利益を請求できますが、一方、被害者が生きていれば生じた生活費がかからなくなります。
そのため、死亡逸失利益を計算する場合には、逸失利益の計算の際、生活費控除率というものを、かけることになります。
生活費控除率は、死亡した被害者の世帯での地位に応じて異なります。なお、下記基準は目安となります。
被害者の立場 |
生活費控除率 |
|
|---|---|---|
一家の支柱 |
被扶養者1人以上 |
40% |
被扶養者2人以上 |
30% |
|
女性(主婦、独身、幼児等含む) |
30% |
|
男性(独身、幼児等含む) |
50% |
|
年金受給者 |
通常より高い割合(50%~70%) |
|
将来介護費は、医療過誤の損害賠償請求をする上で大きな金額を占めるものの一つです。特に、脳性麻痺や寝たきりになるなど、大きな後遺障害が残る医療過誤事件の中で問題になります。
将来介護費と同様、医療過誤により重い障害が残った際に、自宅介護をするために自宅を改造しなければならない場合があり、その際に自宅改造の必要性や改造のための金額が争われることが多々あります。
これまでは、医療過誤事件の一般的な慰謝料や損害賠償額の算定方法について解説してきましたが、医療過誤事件は、患者の年齢、過誤に至った際の患者の様態、医師・病院の過誤の程度等が様々であるため、損害賠償額が前後することはよくあります。
医療過誤がなかったとしても、患者の病気や怪我が完治しているとは限りませんし、命を救えない場合もあります。このような場合、患者が重篤な結果に陥ったとしても、基本的には医療過誤とはならず、損害賠償は認められません。
一方、医療過誤がなければ救えたにもかかわらず、医療過誤があったために、想定されていたより、症状が悪化してしまったという場合には、損害賠償の対象になります。ただ、医療過誤がなかった際に想定されていた状況と、医療過誤により悪化してしまった差が、損害賠償額を算定する際に勘案されますので、患者の状況によって損害賠償額の相場が異なってくるのです。
また、医療訴訟では、「相当程度の可能性」という理論があり、この点も特殊なものとなっています。前述の通り、損害賠償は原則として、医療行為に過失がなければ死亡しなかったということを、患者側が立証する必要があります。しかし、過失がなければ患者が生存できたことの「相当程度の可能性」を立証できた場合には、病院側に一定程度の責任が認められ、損害賠償についても認められる場合があります。
以上の通り、医療過誤事件の慰謝料や損害賠償額は、患者の年齢・収入・家族構成・病状・過失の程度など、様々な要素により大きく異なってきます。特に、遷延性意識障害などにより寝たきりになってしまった場合には、損害賠償額が高額になるため、弁護士の主張・立証の技術により解決金額が数千万円から数億円規模で異なることもあります。
弊所のホームページ内では弊所が取り扱った解決事例を多数掲載しています。判決以外での和解での和解金も掲載していますので、ご参考ください。
また、医療過誤に遭ってしまったということで損害賠償の相場を知りたいという方は、是非弊所までお問い合わせください。

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