子宮筋腫を患っており子宮全摘術を受けた患者が、尿管狭窄が生じて水腎症に罹患したため、尿管狭窄は子宮全摘術を行った医師の過失によるものだと主張したことについて賠償を認めなかった事件

判決東京地方裁判所 平成17年11月14日判決

子宮筋腫とは、子宮の壁にできる良性の腫瘍であり、下腹部の痛みや貧血を引き起こします。原因は完全には解明されていないものの、遺伝やホルモン等の影響で発症するリスクが高まると考えられています。

子宮筋腫を治すために薬物療法などが用いられますが、根治するためには子宮全摘術が行われます。

子宮全摘術では、尿管に近い組織を切断すること等から縫合時や止血のための結紮等によって尿管を結紮する、または損傷する等して尿管狭窄や尿管閉塞を生じさせてしまい、尿がうまく流れずに蓄積してしまうことで背部痛などを引き起こす「水腎症」が生じることがあります。

以下では、子宮筋腫を患った患者に子宮全摘術を行ったところ尿管狭窄が生じたことについて、尿管を誤って結紮したためであるとして訴えたものの、原告の請求が棄却された事件を紹介します。

事案の概要

原告は子宮筋腫を患っており、被告病院で子宮全摘術を受けました。その1ヶ月後に原告は被告病院を受診し、右側の腹部と背部の痛みがあって37℃前後の発熱があると訴えました。そこで超音波検査を行ったところ、尿管閉塞の疑いがあることが判明しました。

後日、被告病院における造影検査が行われて、他の病因への紹介状が作成されました。その紹介状には背部痛が持続していた旨の文言が記載されましたが、日付などに記載ミスがありました。

紹介された病院でCT検査などが行われ、原告の右尿管に高度の狭窄があり右水腎症に罹患していることが判明し、他の病院で尿路再建術を受けました。

原告は、尿管閉塞は子宮全摘術における縫合や結紮等において尿管を巻き込んだことによるものであるなどと主張して、被告に損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、手術のときに尿管狭窄を生じさせて水腎症を発症した場合には直後から背部痛が発生することと、手術直後から原告が腰痛を訴えていたことを認めました。

しかし、手術の1ヶ月後までは背部痛を訴えた証拠がなく、腰痛は子宮全摘術によって生じることがあるため、背部痛は手術後しばらく経ってから生じるようになった可能性が高いと指摘しました。

また、原告は手術後から鎮痛剤を飲んでいたと主張しましたが、投与された鎮痛剤には腰痛や背部痛に対する適応はないため、鎮痛剤によって痛みが抑えられていたとは認めませんでした。

さらに、背部痛が持続していたとする紹介状の記載があることについては、日付の記載ミスがあること等から信用性が低いとしました。

そして、手術当日の尿量がほぼ正常であり、手術によって片方の尿管がほぼ完全に狭窄したとすれば考えがたいこと、狭窄部を切除しても縫合糸はなかったこと等から、原告の尿管狭窄は手術の直後には存在せず、その後周囲組織の瘢痕化に巻き込まれたために生じた可能性が高いとして原告の請求を棄却しました。

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