監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
薬を変えたら体調が劇的に良くなったり、逆に悪くなった経験のある方も多いと思います。患者としては投薬の内容に疑問を感じた経験のある方もおられると思います。しかし、投薬が過失と評価されるかどうかは専門的な検討を要する難しい問題です。投薬ミスに関する事案では、まずは添付文書やガイドラインの記載を参照して検討することが重要です。
添付文書とは製薬会社が医師や薬剤師向けに製品情報を記載した書面です。PMDA(医薬品医療機器総合機構)のウェブサイト等でも添付文書の内容を確認できます。最高裁判所は、ペルカミンS事件(最判平成8年1月23日民集50巻1号1頁)において、添付文書に「記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される」と判示しています。このように添付文書記載事項違反と因果関係があれば、過失が推定されるという判例が存在するため、添付文書の内容は重要です。ただし、添付文書に違反していれば、どのような事案であってもペルカミンS事件のルールが使えるわけではありません。また、当職としては、ペルカミンS事件のルールが使えるような事案では、判例のルールを使わなくても、添付文書以外の医学文献によって医師のコンセンサスの内容を立証することが可能な場合が多いように感じています。
添付文書については平成31年4月1日から記載のルールが変更され、誤解を招きやすい内容が再整理されました(令和6年3月31日までの経過措置があります。)。例えば、「慎重投与」という項目は医師にとっても誤解が生じやすいものであったようです(東京地裁医療集中部等「医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム第3回」判例タイムズ1355号26頁)。慎重投与の正確な定義については、特定の患者には副作用の危険が高いため「投与の可否の判断、用法及び用量の決定等に特に注意が必要である場合、又は、臨床検査の実施や患者に対する細かい観察が必要とされる場合」に記載すると定められています(薬発第607号平成9年4月25日「医療用医薬品の使用上の注意記載要領について」)。つまり、薬を使っていいかどうか自体を慎重に判断するべきという意味と、薬が使えることを前提として慎重な検査や観察を行うべきという意味が混在していたことになります。平成31年4月1日からは徐々に慎重投与の欄はなくなっていく予定ですが、項目がなくなっても上記のような曖昧な内容が残っていると誤解の温床になります。製薬会社には誤解が生じにくいような文言を記載して頂きたいものです。
ガイドラインは投薬に関する事案でも極めて重要です。ガイドラインには様々なものがありますが、一定の範囲の医療関係者のコンセンサスの内容を記載したものであると考えられるため、過失の判断資料になることが多いです。ガイドラインに違反している場合には、当該事案でガイドラインと異なる治療を行う理由が妥当かどうか等を参考にして過失の有無が判断されます(髙橋譲編著「医療訴訟の実務」196頁)。
ただし、形式的にガイドラインに違反するか否かを判断するのではなく、ガイドラインの背景となっている医学的知見を踏まえた検討が必要です。ガイドラインのレファレンスを調べれば背景となっている医学的知見のうち重要なものを把握することができます。
なお、多くのガイドラインには訴訟の注意義務違反の基準にならないと記載されているため、ガイドライン違反があっても裁判では問題にならないという誤解をしている方もおられますが、法曹界ではガイドラインは「医療訴訟においても積極的に活用すべき」と考えられています(髙橋譲編著「医療訴訟の実務」190頁)。
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