双子を出産するときに、第一子を経腟分娩により娩出後、第二子の娩出のために人工破膜をしたときの処置が適切でなかったため臍帯脱出が発生した過失と、第二子が誤嚥により死亡したことの因果関係を認めた事件

判決名古屋地方裁判所 平成12年7月3日判決

人工破膜とは、自然に破水しないときに、コッヘル鉗子などを用いて卵膜を破ることによって人工的に破水させることです。人工破膜を行う目的として、なかなか陣痛が始まらない場合に、破水やそれに伴う児頭の下降による刺激によって分娩を促すことや、卵膜に覆われたまま出産することによって子供の呼吸を妨げるのを防止すること等が挙げられます。ただし、人工破膜には臍帯脱出などを生じさせるリスクがあります。

臍帯脱出とは、胎児よりも臍帯(へその緒)が先に出てきてしまうことです。臍帯脱出が生じると、胎児が産道等で臍帯を圧迫することによって血流が悪くなり、胎児機能不全(胎児が弱った状態)を引き起こすリスクがあります。臍帯脱出は、臍帯下垂(胎児の頭などよりも臍帯の方が産道の出口に近い状態)が生じているときに人口破膜を行うと発生するリスクが高まるため、胎児が横位である場合等には人工破膜を行ってはならず、体位の確認は慎重に行わなければなりません。

以下では、人工破膜の処置を適切に行わなかった過失と、生まれた子供の誤嚥による死亡との因果関係を認めて、被告に約3653万円の賠償を命じた事件を紹介します。

事案の概要

女性Aは妊娠して検査を受けたところ、双胎妊娠(双子を妊娠していること)と妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)であることが判明して被告医院に入院しました。

6月9日の午前1時20分頃、破水が確認されて、午前11時頃に第一子を経腟分娩によって出産しました。

さらに、午前11時5分頃に第二子について人工破膜が行われましたが、臍帯脱出が発生しました。このとき、第二子は横位になっていました。

帝王切開が行われ、午後0時18分に第二子が娩出されましたが、臍帯脱出により酸素供給が不十分になったため、第二子は無酸素脳症等を発症していました。

その年のうちに、第二子は誤嚥による呼吸不全によって死亡しました。

原告らは、被告医院の医師は第二子の胎位確認を怠った過失や、人工破膜の処置を適切に行わずに臍帯脱出を生じさせた過失等があるとして、被告らに損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

裁判所は、双胎妊娠では第一子を娩出後に第二子の胎位が変わるケースがあることから、第二子の胎位を超音波検査等で確認し、経腟分娩ができないときには帝王切開を行った方が良い場合があることを指摘しました。また、第一子娩出後の第二子が頭位であることを確認したら、児頭が骨盤腔内に入ってから子宮底を押さえる等して、胎位が挙上することにより臍帯脱出などが発生することを防がなければならないと指摘しました。

その上で、被告医院の医師は内診により、第二子の先進部(産道の出口に一番近い部分)が頭であることを確認しており、第二子はその時点で頭位だったため、超音波検査により胎位を確認しなくても過失はないとしました。

一方で、第二子が横位になったのは子宮底を押さえる等の方法により固定しないままで人工破膜を行ったのが原因であるとして、被告医院の医師には人工破膜の処置を適切に行わなかった過失があると認定しました。

そして、第二子が誤嚥により死亡したのは無酸素脳症などを発症していたためであり、その原因は被告医院の医師の過失であるため、医師の過失と第二子の死亡との相当因果関係があると認めました。

以上のことから、裁判所は被告に対して約3653万円の賠償を命じました。

医療過誤のご相談受付

まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。

0120-090-620
  • 24時間予約受付
  • 年中無休
  • 全国対応

※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。