株主が会社に対して株式の買取を求める権利、それが株式買取請求権です。しかし、会社がこの請求に応じるには、財源規制という壁に直面する可能性があります。
株式買取請求に応じるか検討するためには財源規制を踏まえて、株式を買い取るか否かを決定する必要があります。もし分配可能額を超えて株式を買い取ってしまうと、会社法違反となり、金銭を支払う義務が生ずるリスクも生じます。
本稿では、株式買取請求権に応じる際に知っておくべき財源規制について詳しく解説していきます。
目次
株式買取請求権に応じる際の分配可能額とは?
株式買取請求権は、株主が自身の株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できる権利です。
この請求に応じて会社が自己株式を取得する場合、会社法では分配可能額の範囲内でしか買い取ることができないとされています。
分配可能額とは、会社が株主に対して行う配当や自己株式取得として払い戻すことができるお金の上限額をいいます。会社から財産が流出することを防止するため、会社法では自己株式の取得に財源規制が設けられています。
会社は株式買取請求権に応じる際、必ず分配可能額を確認し、これを超える価格や数量の取得とならないよう注意しなければなりません。
なぜ自己株式の取得に財源規制がかかるのか?
自己株式の取得に財源規制がかかるのは、会社が自由に資産を株主に分配するなどを制限し、会社の財務基盤を健全に保つためです。
会社法には、資本維持の原則があり、これは会社が設立時に定めた資本金額に見合うだけの資産を維持したうえで、初めて株主への分配が行えるという考え方です。
もし会社が資産の制限なく自由に自己株式を取得してしまえば、会社の資本が毀損し、債権者へ弁済できなくなるおそれがあります。
財源規制がかかるケース・かからないケース
自己株式取得の際には、多くの場合「分配可能額」までという財源規制が適用されますが、すべてのケースで規制がかかるわけではありません。財源規制がかかる場合とかからない場合を整理すると、以下のようになります。
財源規制がかかるケース
- 譲渡制限株式の譲渡承認請求を会社が承認せず、自社で株式を買い取る場合
- 株主と合意して、自己株式を有償で取得する場合
- 譲渡制限株式において、相続人に売渡請求を行い取得する場合
- 端数株式(株式分割等で発生した端数株)を会社が買い取る場合
財源規制がかからないケース
- 事業全部譲受けに際して自己株式を取得する場合
- 合併によって他社の株式を承継する場合
- 吸収分割によって株式を承継する場合
これらの例外規定は、組織再編行為に伴う場合や、特定の政策的な理由がある場合に限られています。
取得目的や手続によって財源規制の適否は異なるため、弁護士などの専門家と相談し、事前確認を必ず行いましょう。
株式買取請求における分配可能額の計算方法
正確な分配可能額は、会社法に基づき厳密に計算する必要がありますが、基本的となる計算の考え方は、以下の通りです。
分配可能額 ≒(その他資本剰余金の額+その他利益剰余金の額)- 自己株式の帳簿価額
分配可能額の具体的な算定は、以下の3ステップで行います。
- 決算日における剰余金の額を算出
- 買取時点の剰余金の額を算出
- 買取時点の分配可能額を算出
この計算は複雑になることが多いため、実際に分配可能額を計算するときは、弁護士などに相談して正確な分配可能額を把握することをおすすめします。
①決算日における剰余金の額を算出
分配可能額を計算する上で、まず最初に直近の決算日における剰余金の額を正確に把握する必要があります。
剰余金は、会社が事業活動によって得た利益から配当や税金などの支出を差し引いた後に残る資金で、自己株式の取得の財源となります。剰余金の額は、直近の決算書を参照し、以下の計算式に基づいて計算します。
決算日における剰余金の額 = その他利益剰余金 + その他資本剰余金
利益剰余金: 過去の事業活動によって得られた利益の累積額であり、繰越利益剰余金などが含まれます。
その他資本剰余金: 資本準備金の減少額や、その他資本取引によって生じた剰余金が含まれます。
ただし、剰余金の額から控除しなければならない項目(自己株式の帳簿価額など)もあります。
決算書に記載された数値をそのまま使うのではなく、会社法上のルールに従って調整する必要がある点に注意が必要です。
②買取時点の剰余金の額を算出
分配可能額を計算する際は、決算日時点の剰余金だけでなく、決算日から買取時点までの剰余金の増減も反映させる必要があります。
買取時点の剰余金の額=決算日における剰余金の額(上記①)+剰余金の増加額-剰余金の減少額
剰余金の増加額: 決算日以降に発生した利益(臨時決算益)や、資本準備金の増加など、剰余金を増加させる要因を合計します。
剰余金の減少額: 決算日以降に発生した損失(臨時決算損)や、配当金の支払い、自己株式の取得など、剰余金を減少させる要因を合計します。
決算日以後、買取時点までに自己株式処分の損益や剰余金の配当等など、調整項目に変化がなければ、「決算日時点」と「買取時点」の剰余金は同額となります。
③買取時点の分配可能額を算出
最終的な分配可能額は、ここまで算出した買取時点の剰余金の額から、会社法で定められた一定の項目を控除することで算出されます。
買取時点の分配可能額は、以下の計算式となります。
分配可能額 = 買取時点の剰余金の額 - 控除すべき金額
控除すべき金額は、主に以下の項目が該当します。
自己株式の帳簿価額: 会社が保有する自己株式の帳簿価額を控除します。
その他会社法で定められた項目: 資本準備金、利益準備金など、会社法で定められた特定の金額を控除します。
この計算によって算出された金額が、会社が株式を買い取ることができる上限額となります。計算結果がマイナスになる場合は、分配可能額はゼロとなり、株式の買取に応じることはできません。
お問い合わせ
非上場株、譲渡制限株、株式相続のお悩みはお気軽にご相談ください。
- 24時間予約受付
- 年中無休
- 通話無料
- ※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。
- ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。
分配可能額を超過して株式買取請求権に応じた場合は?
会社法上、分配可能額を超えて株式買取請求権に応じ、自己株式を取得した場合、対価の交付を受けた者、業務執行者、総会議案提案取締役及び議案提案取締役は、会社に対し、連帯して、交付した対価の帳簿価格に相当する金銭を支払う義務を負う可能性があります。
そして、その株式取得の法的効果は、「無効」とする説が有力です。
財源規制に違反した株式取得の効果を無効と捉える考え方の根拠としては、他の手続違反の行為が無効とされていることと均衡を保つ観点から、財源違反も当然に無効となるといったことなどが挙げられています。
株式買取請求における財源規制への対策
株式買取請求において分配可能額が不足する場合には、いくつかの対策が考えられます。
まず、減資を行うことで配当可能利益(分配可能額)を増加させる方法があります。減資とは、資本金や準備金を減らし、その分を利益剰余金に振り替えることで、分配や自己株式取得の財源を増やせる手法です。
なお、減資には、一定の期間を要する債権者保護手続などが必要ですので、早めに着手しなければなりません。
また、会社での自己株式取得が困難な場合には、経営者個人が株主から直接株式を買い取る方法を検討してもよいでしょう。この場合は、会社の財源規制の対象外となるため、柔軟に対応することができます。
株式買取請求権の対応や自己株式の取得に関しては、弁護士法人ALGにご相談ください
株式買取請求への適切な対応や自己株式取得の手続きには、複雑な法規や厳格な計算に対する専門知識が必要となります。
法的な知識や経験が不足していると適切な対応を誤ることにも繋がるため、結果として会社経営に大きな影響を及ぼすおそれもあります。
株式買取請求権の対応や自己株式の取得手続きに少しでも不安があれば、お早めに弁護士へご相談ください。
弁護士法人ALGでは企業法務分野における豊富な実績を生かし、貴社の状況に即した最適な対応策をアドバイスいたします。
財源規制の確認から株式買取手続き、契約書作成やトラブル時の対応までワンストップでサポートが可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。
お問い合わせ
非上場株、譲渡制限株、株式相続のお悩みはお気軽にご相談ください。
- 24時間予約受付
- 年中無休
- 通話無料
- ※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。
- ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。
- 監修 :
- 弁護士法人 ALG&Associates執行役員弁護士 家永 勲
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)
東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2024年1月4日現在)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。 東京弁護士会所属。私たちは、弁護士106名、スタッフ220名(司法書士1名を含む)を擁し(※2024年1月4日現在)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。