監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
医療事故の中でも、注射や輸血に関するものを含めた誤薬事故は、手術や処置の医療事故に次ぐほどの多さです。
また、医療事故になるおそれのあったヒヤリハット事例については、誤薬がとても多くなっています。
薬を間違えると、人体に大きな影響を及ぼすおそれがあるため、最悪の場合は死亡に至ることも考えられます。
誤薬事故は医療機関側のミスで起こることが多いため、損害賠償を請求できる可能性があります。
この記事では、誤薬事故について、どのような事故があるのか、医療機関側の過失をどのように判断するのか等を解説します。
目次
誤薬事故が発生したときに、医療機関側の過失があれば損害賠償を請求できる可能性があります。
特に、誤薬が原因となって重大な後遺障害が生じた場合や、患者が亡くなってしまった場合には、損害賠償の金額は高くなる可能性があります。
過去には、誤薬事故のために追加的な治療が必要となったケースにおいて、数十万円程度が認められたことがあります。
誤薬事故が原因で患者が亡くなってしまったケースでは、2000万円以上が損害賠償として認められたこともあります。ただし、ミスの悪質性や、誤薬事故後における医療機関側の対応などによっても金額は変動します。
誤薬事故について、弁護士であれば、事故の原因が医療機関側にあるか、追加的な治療の原因が誤薬事故によるものか等についての調査や、事故に関する証拠の収集、医療機関側との示談交渉等について対応することができます。
誤薬事故で、医療機関側の注意義務違反の程度が大きいとされた裁判例について、以下で解説します。
名古屋地方裁判所 平成18年1月26日判決 平14(ワ)5603号
本件は、被告病院で手術を受けた患者に対して、前立腺肥大症の治療薬である「グリチロン」を処方するべきであったところ、誤って血糖降下剤である「グリミクロン」が処方された事案です。
患者は、低血糖に陥って2回救急搬送され、2回目の搬送の後で誤薬事故が判明しました。患者は退院しましたが、その後、転倒事故により入院し、入院中にも転倒して、肺炎を直接の原因として死亡しました。
薬剤師が、処方箋に記載された「グリチロン」と誤って「グリミクロン」を処方したことについて、薬剤師に求められる最も初歩的な注意義務に違反したものとして、注意義務違反の程度は大きいと裁判所は認定しました。
しかし、患者の転倒事故については、低血糖症により運動障害が残ることはまれであり、低血糖症により転倒事故が発生した高度の蓋然性があるとは認めませんでした。
そのうえで、入院中の転倒について被告病院側の過失を認め、その過失がなければ、患者が死亡した時点でなお生存していた相当程度の可能性が認められたため、慰謝料および弁護士費用として660万円の請求が認容されました。
誤薬事故とは、患者に薬を処方・投与するときに、薬の種類や分量、濃度、形状、処方する患者、服用する頻度等を間違えることです。
投与するべき薬を忘れてしまった場合や、服用する時間を間違えた場合、使用できる期限を間違えた場合等も含めることがあります。
誤薬事故が発生してしまうと、病気を治すことや症状の緩和等を目的として薬を使用するのに、症状が改善しなかったり、むしろ悪化したりするおそれがあります。
誤薬事故は、患者の身体に悪影響を生じさせるおそれがあります。
例えば、血圧が下がってしまった患者に対して、血圧を上げる薬と間違えて、下げる薬を投与してしまうと、血圧が下がりすぎて意識を失うリスク等があります。
血糖値などについても、誤薬によって、同じようなことが起こるおそれがあります。
また、薬の種類によってはアレルギー反応を起こすリスクや、服用している他の薬の効果に影響を及ぼすリスク等があります。
分量を間違えれば、効果がなくなってしまったり、強い副作用が発生したりするおそれもあります。
誤薬事故が発生する要因として、主に以下のようなものが挙げられます。
誤薬事故について損害賠償が認められるためには、医療機関側に過失があったこと、および、過失と患者に発生した悪しき結果との間に因果関係があったことを立証する必要があります。
医療機関側に過失があったと認められるためには、予見可能性があり、結果回避義務に違反したことを証明しなければなりません。
誤薬事故について、医療機関側に過失があったと主張するためには、予見可能性があったことが必要です。
予見可能性とは、事故などが発生するリスクがある点について、注意すれば事前に認識できたということです。
例えば、様々な薬を乱雑に置いており、必要になると取り出すようなやり方をしていたら、薬を取り違えるリスクがあることは注意すれば認識できるでしょう。
また、認知症の患者に、数種類もの薬を一週間分渡したら、飲む薬を間違えるリスクや、一度にすべて飲んでしまうリスク等があることは、注意すれば認識できるでしょう。
誤薬事故について、医療機関側に過失があったと主張するためには、結果回避義務があったことが必要です。
結果回避義務とは、予見可能性がある状況において、悪しき結果の発生を防止する義務のことです。
例えば、誤薬事故を防ぐために、薬の整理や取り違えの防止策の共有、服用する患者の本人確認等を行っているかが重要となります。
誤薬事故が発生したら、医療機関側は、最初に患者の容態を確認します。
そのうえで、胃洗浄や救命措置などが必要であれば、処置を行います。
それから、一般的には病院長にまで報告が行われます。現場から報告する経路は、各医療機関において決めておくべきでしょう。
誤薬事故の状況については、きちんと記録を残してもらう必要があります。
誰が、いつ、どこで、何をしたのかを明らかにしてもらわなければなりません。
そして、医療機関は再発防止のために情報を共有します。
このとき、原因を個人のミスだと考えてしまうと、「注意する」等の結論が出てしまうことがあります。
ミスをした個人を責めるのではなく、どうすれば誤薬事故が発生しないかを検討しなければなりません。
誤薬が発生しても、必ず医療従事者が刑事罰を科されるわけではありません。
しかし、医療従事者の対応が被害を拡大させた場合や、あまりにも重大なミスをした場合等では、刑事罰を科されることがあります。
例えば、医療従事者が誤薬に気づいたのに、ミスが発覚することを恐れて放置したために患者が亡くなったケースや、本来の数倍といった多量の薬が処方されており、一見して分量が多すぎると分かるようなケース等では、刑事責任を追及できる可能性があると考えられます。
損害賠償が認められるには、過失と損害に因果関係が必要とされます。
誤薬事故があっても、患者の心身に異常がなければ、損害賠償は認められにくいでしょう。また、誤薬事故とは無関係な感染症などで患者が亡くなっても、損害賠償は認められにくくなります。
しかし、誤薬事故で入院が長引いたために体調が悪化し、感染症にかかった等の事情が認められれば、損害賠償も認められる可能性があります。
誤薬事故は、薬を誤って処方された事実については証明しやすいと考えられます。
しかし、誤薬事故によって体調が悪化したこと等を立証するためには、医療について知識や医学に関する書籍、協力医のネットワーク等が必要となります。
また、誤薬事故が発覚した後における医療機関側の対応については、カルテの開示等によって明らかにしなければなりません。
誤薬事故の被害について損害賠償を請求したい場合には、弁護士法人ALGにご相談ください。
私たちは、医療事故に対する損害賠償請求に対応するために、医学的な知識の蓄積などに取り組んでおります。
損害賠償の請求の前提となる事実の精査も含めて、まずはご相談ください。

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