監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
赤ちゃんは、生まれると母親から栄養を受け取れなくなるため、一時的に血糖値が低下する場合があります。一般的には、時間が経ったら血糖値は上昇しますが、そのままでは血糖値が上昇しないケースもあります。
低血糖は赤ちゃんにダメージを与えるおそれがあるので、適切に診断して治療しなければなりません。この記事では、新生児低血糖の原因や症状、治療方法等について解説します。
目次
新生児低血糖症とは、生まれたばかりの赤ちゃんの血液で、糖分が少なくなってしまうことです。
正常な場合であっても、生後1~2時間程度は血糖値が下がっていきますが、その後は徐々に上がっていき、生後2~3日程度で安定することが多いです。しかし、新生児低血糖症では、低血糖が持続したり、何度も低血糖を繰り返したりします。
生まれたばかりの赤ちゃんの血糖値が一時的に下がる場合が多いのは、赤ちゃんが母親のお腹の中にいたときには、胎盤を通じてブドウ糖などの栄養分を送られていたからです。出生後は母親からの栄養分の供給がなくなるので、血糖値の低下が起こりやすくなるのです。
しかし、赤ちゃんが健康な場合には、自分の身体に蓄えておいた栄養を利用して血糖値を上昇させることができます。
新生児低血糖症には、以下の2種類があります。
一過性低血糖
一過性低血糖とは、赤ちゃんの血糖値が一時的に低下してしまう症状です。一過性低血糖は、赤ちゃんのグリコーゲンの蓄えが少ない等の理由により、血糖値を上げることができずに低血糖となります。
また、母親が糖尿病であった場合等では、赤ちゃんが血糖値を下げようとしてインスリンを分泌しすぎるため、低血糖になるケースがあります。
持続性低血糖
持続性低血糖とは、赤ちゃんの低血糖が長時間に渡って持続したり、何度も低血糖を繰り返したりする症状です。持続性低血糖は、赤ちゃんがⅠ型糖尿病である等、先天性の疾患が原因である場合があるため早急な治療が必要となります。
赤ちゃんが低血糖になる原因は、大きく分けて母体による要因と、胎児・新生児による要因が考えられます。それぞれの要因について、次項より解説します。
母親が糖尿病や妊娠糖尿病である場合、お腹の中の赤ちゃんが高血糖状態になってしまうケースがあります。すると、赤ちゃんがインスリンを過剰に分泌し、その状態が出産後も続くために低血糖になる場合があります。
また、切迫早産等への対応のために子宮収縮抑制剤を使用していると、まれに副作用として胎児が低血糖になることがあります。
胎児や新生児に以下のような要因があると、新生児低血糖のリスクが高くなります。
早産だと新生児が低血糖になりやすいのは、グリコーゲンや脂肪の蓄積が少ないことや、血糖値を上げるホルモンの分泌が少ないこと等が原因として挙げられます。
赤ちゃんが低血糖になると、様々な症状が出るおそれがあります。主な症状として、以下のようなものが挙げられます。
新生児低血糖の治療には、赤ちゃんに低血糖の症状がある場合とない場合で異なる方法を用います。
低血糖症状がない場合
血糖値が50mg/dl未満で、授乳が可能な場合にはまず授乳を行います。授乳によって血糖値が安定したら、定期的に血糖値を測定しながら経過観察します。血糖値が改善しなければ、ブドウ糖液を点滴して治療します。
低血糖症状がある場合
血糖値の値が50mg/dl未満の場合には、ブドウ糖液の注射や点滴を行います。それでも血糖値を保てない場合には、ステロイドやグルカゴン等の薬剤を使って治療します。
なお、高インスリン血症により低血糖となっている場合には、ジアゾキサイドを使います。薬剤を使うケース等では、NICUでの入院管理が必要なることもあります。
新生児低血糖の治療を開始するべき基準として、明確に定められているわけではありません。しかし、血糖値が50㎎/dlを下回ったら治療を開始する目安となります。また、40㎎/dlを目安にするケース等もあるようです。
赤ちゃんの低血糖に対応しなければ、神経等の発達に悪影響を及ぼすため、以下のような後遺症が発生するリスクがあります。
これらの重大な影響は、低血糖でいる期間が長いとリスクが高まってしまいます。特に、低血糖になるリスクが高い赤ちゃんには、なるべく早く点滴等による治療が行えるように注意を払う必要があります。
【事件番号 平23(ワ)2410号、広島地方裁判所 平成27年5月12日判決】
本件は、けいれん発作を起こした赤ちゃんが何度も被告病院を受診していたものの、血液検査が行われていなかったところ、初診から1ヶ月以上経ってから行われた血液検査により「高インスリン血性低血糖症」と診断された事案です。
裁判所は、主に以下のような理由から、被告病院は初診時と2回目の受診時に血液検査を実施する注意義務に違反したと認定しました。
【初診時】
【2回目の受診時】
そして、赤ちゃんは治療薬の投与を受けるようになっても低血糖の状態を繰り返しているため、後遺障害のすべてが被告病院の注意義務違反によるものだとは認められず、赤ちゃんが喪失した労働能力のうち65%が相当因果関係を有する旨を判示しています。
以上のことから、赤ちゃんの逸失利益約2900万円、後遺障害慰謝料1600万円等、合計およそ4969万円の請求を認容しました。

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