臍帯血pH

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

臍帯(へその緒)は、母体の胎盤と胎児をつないで酸素や栄養等を運んでいる大切な組織です。臍帯を流れている臍帯血は、移植によって白血病等を治療できる可能性があることから注目されましたが、産まれた子供が胎内で低酸素の状態であったか否かを判断するための検体としても使われます。胎児が低酸素の状態に陥ると臍帯血pHが下がる傾向にあるため、臍帯血pHを調べることによって胎内での酸素供給が十分であったのかが判断できるためです。

ここでは、臍帯血pHについて解説します。

臍帯血pHとは

臍帯血pHとは、臍帯動脈血のpHです。臍帯動脈は胎児の血液を母体に送り返すための血管であるため、胎児の体内を巡った血液(臍帯動脈血)が流れています。

なお、動脈は心臓から血液を送り出すための血管であり、静脈は心臓に血液を送り返すための血管であるため、母体の心臓を基準に考えてしまうと、胎児から胎盤に血液を送るための血管が臍帯動脈であることに違和感を覚えるかもしれません。しかし、臍帯についての「動脈」「静脈」の区別は、胎児の心臓を基準にして行われています。そのため、胎児が母体に血液を送り返すための血管は「臍帯動脈」とされているのです。

まとめると、血液は以下のように流れます。

母体→(臍帯静脈)→胎児→(臍帯動脈)→母体

ちなみに、pHとは、簡単にいえば液体が酸性かアルカリ性かを表す数字であり、pHが7であれば中性、7より小さければ酸性、7より大きければアルカリ性となります。人間の血液のpHは、正常であれば7.35~7.45程度(弱アルカリ性)ですが、臍帯動脈血は正常であっても、より酸性に近いアルカリ性(7.15~7.38程度)であることが多いです。

臍帯血pHの正常値

臍帯血のpHの正常値は、7.15~7.38程度とされています。この数値が低くなりすぎると、アシドーシスの所見が認められます。アシドーシスとは、血液が正常なときよりも酸性に近付いた状態のことであり、様々な疾患によって血中の二酸化炭素濃度が上がること等の影響で生じます。

胎児ではない人間がアシドーシスを発症したときには、アシドーシスの原因になっている疾患(糖尿病や呼吸器疾患等)に対する治療等を行います。一方で、胎児のアシドーシスの場合には、帝王切開等による早期の娩出によって低酸素状態を解消する方法が考えられます。

臍帯血pHの変動

臍帯血pHは、胎児が受けたストレス等の影響によって変動します。そのため、分娩直後の臍帯血pHを調べることは、分娩管理が適切であったか否かを判断する材料になります。臍帯血pHが正常であれば、胎内で低酸素状態になっていなかったことが推測できます。

臍帯血pHの低下

臍帯血pHが低下している(酸性になっている)場合には、胎児に十分な酸素が供給されていなかったことを疑う必要があります。特にpHが7未満になっているときには、新生児が死亡するリスクや神経学的後遺症が生じるリスクが上がってしまいます。

臍帯血pHが低いことによる影響

臍帯血pHが低下している(酸性になっている)ときには、胎児に十分な酸素が届いていないおそれがあり、低酸素の状態が長時間に渡って続いてしまうと、胎児が脳性麻痺等の後遺症を負ってしまうリスクが生じます。このとき、CTG(胎児心拍数陣痛図)等によって異常がわかる状態になっていれば、低酸素状態を解消するためにも帝王切開等によって早期に娩出することが望ましいと考えられます。

臍帯血pHに関する裁判例

CTG(胎児心拍数陣痛図)によって遅発一過性徐脈(子宮収縮の最強点に遅れて一過性徐脈の最下点を示すもの)が観察される場合には、胎児が低酸素状態であることが推測できます。胎児の低酸素状態が長引けば、脳性麻痺等による障害が残るリスクが高くなります。そして、胎児が低酸素状態であると、臍帯血pHが低下することがわかっています。そのため、出産直後に臍帯血pHを調べることによって、胎児が低酸素状態であったことの証拠の1つとすることができます。

ここで、臍帯血pHが分娩中の低酸素状態を認定する根拠とされた裁判例をご紹介します。

【高知地方裁判所 平成28年12月9日判決】

産まれてきた子供が脳性麻痺による重度の後遺障害を負ってしまった事案において、裁判所は、CTGによって高度遅発一過性徐脈の発生が確認されており胎児が低酸素状態にあることが推測されたことや、病院が帝王切開等を行うことが可能であったことを認定しました。そして、出生後の臍帯血pHが6.8であったこと等から分娩中に低酸素状態に陥っていたことを認め、医師が分娩室に入った時点で帝王切開等の準備に着手していれば子供は後遺障害を負わなかったと指摘して、子供の後遺障害慰謝料3000万円や、両親の固有の慰謝料として父親は300万円、母親は400万円等、合計約1億8000万円の請求を認容しました。

この記事の執筆弁護士

大阪法律事務所 副所長 弁護士 髙橋 旦長
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