監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
脳性麻痺は、防ぎようのない場合が多く、完全に治す方法はいまだに開発されていません。
しかし、一部の原因については、予防接種などによって防ぐことができる可能性があります。
また、赤ちゃんが脳性麻痺になってしまっても、早く気づいて適切な対処を行うことができれば、成長するに従って自分でできることが増えていく可能性もあります。
この記事では、脳性麻痺の原因や症状、改善方法等について解説します。
目次
脳性麻痺とは、赤ちゃんが母親のお腹の中にいるときや、生まれてから4週間以内に生じた脳の損傷によって、身体が不自由になる後遺症のことです。
赤ちゃんの脳性麻痺に気づくためには、運動能力の発達の遅れに注意する必要があります。
例えば、首の据わりやハイハイ、つかまり立ち、歩行等について通常よりも遅れが目立つ場合には、脳性麻痺を疑う必要があります。
脳には運動機能を担う部分があり、その部分が損傷してしまうと、身体を思いどおりに動かすのが難しくなってしまいます。
また、他の部分を損傷すると、異なる形で影響が出ます。
脳性麻痺の種類を表にまとめたのでご覧ください。
| 痙直型 | 大脳で運動神経を司る錐体路系という場所が傷つくことで生じるタイプ |
|---|---|
| アテトーゼ型 | 大脳の奥深くにある大脳基底核という場所が傷つくことで生じるタイプ |
| 運動失調型 | 小脳、または小脳に通じる神経の通り道が傷つくことで生じるタイプ |
| 混合型 | 「痙直型」「アテトーゼ型」「運動失調型」の複数のタイプが組み合わさったタイプ |
赤ちゃんの脳性麻痺は、妊娠中や出産時に明らかな異常があった場合には予測できることもありますが、一般的には早期発見が難しいものです。
なぜなら、赤ちゃんがハイハイや歩行をすることができるようになるまで時間がかかり、必要な時間に個人差があるからです。
脳性麻痺を発見するために、主に以下のようなことを確認して診断します。
これらを確認した結果として、脳性麻痺の疑いが強いと診断されたら、MRI検査やCT検査等によって脳の状態を確認し、脳性麻痺だと診断されます。
残念ながら、手術や薬を用いても、脳性麻痺を完全に治す方法はありません。
そのため、理学療法や作業療法、言語聴覚療法等によるリハビリで症状を改善し、日常生活への影響を緩和します。
また、筋肉の緊張が強くなりすぎるために動きに影響が出る場合には、ボツリヌス毒素筋注療法などによって筋肉の緊張を緩和する方法等を用います。
脳性麻痺の原因となる脳の損傷は、主に以下のような要因で生じます。
これらの要因について、次項より詳しく解説します。
低酸素脳症とは、赤ちゃんの場合には新生児仮死などで脳が酸欠になるために発症します。
吸入酸素量の低下によって引き起こされる低酸素脳症は、低酸素性虚血性脳症です。
赤ちゃんが低酸素状態に至るきっかけとなる疾患として代表的なものについて、以下の表をご覧ください。
| 胎盤剥離 | 妊娠中に胎盤が子宮壁から剥がれてしまう疾患です。 |
|---|---|
| 過強陣痛 | 陣痛が強くなりすぎて、お腹の中の赤ちゃんが圧迫されてしまう疾患です。 |
| 子宮破裂 | 外傷や手術等によって子宮に傷があることや、多産等により子宮壁が弱まっていること等から、子宮が収縮に耐えられず破裂してしまう疾患です。 |
| 臍帯圧迫 | 母親のお腹の中にいるときの臍帯巻絡や、出産時の臍帯脱出等により、臍帯が圧迫されてしまう疾患です。 |
妊娠中に、母親が感染症に罹患してしまうと、お腹の中にいる赤ちゃんの脳性麻痺を引き起こしてしまうおそれがあります。
一部の感染症については、予防接種によってリスクを抑えられる可能性があります。
代表的な感染症を表にまとめましたのでご覧ください。
| 風疹 | 妊娠初期の母親が風疹に罹患すると、お腹の中の赤ちゃんが「先天性風疹症候群」を発症するおそれがあります。先天性風疹症候群の症状には脳性麻痺が含まれます。 |
|---|---|
| トキソプラズマ症 | トキソプラズマは寄生虫の一種であり、人に感染するとトキソプラズマ症を引き起こすおそれがあります。妊娠中の母親が感染すると、胎児にも感染するケースがあり、「先天性トキソプラズマ症」を発症して脳性麻痺になるおそれがあります。 |
| サイトメガロウイルス感染症 | サイトメガロウイルスはありふれたウイルスですが、胎児が感染してしまうと「先天性サイトメガロウイルス感染症」を発症して脳性麻痺になるおそれがあります。 |
脳性麻痺になってしまった赤ちゃんは、生まれてからの時期によって、主に以下のような症状が見られます。
【おおむね生後6ヶ月まで】
【おおむね生後6ヶ月以降】
また、運動能力以外にも影響が生じて、知的障害や視覚障害等になるケースも多いです。
痙直型とは、体の両側に均等に現れる両麻痺が多く見られるタイプです。
運動神経を司る大脳が損傷することによって引き起こされると考えられています。
脳性麻痺のうち70~80%程度を占めており、筋肉の異常なこわばりが特徴です。
身体を動かしにくいため、動かないでいると身体が硬くなってしまい、ますます動かしにくくなります。
アテトーゼ型とは、筋肉の緊張が意識しなくても変わってしまうため、顔や腕などがコントロールできないタイプです。
不随意運動を司る大脳基底核が損傷することによって引き起こされると考えられています。
脳性麻痺の10~20%程度を占めており、嬉しいことや驚くことがあって興奮すると、身体が勝手に動いてしまうことが多いです。
混合型とは、複数の脳性麻痺の型を発症するタイプです。
多くが痙直型とアテトーゼ型の混合です。
脳性麻痺を完治させる方法は、まだ発見されていません。
そのため、日常生活を送りやすいようにすることが治療の主な目的となります。
脳性麻痺の治療方法として、主に以下のようなものが挙げられます。
これらの治療方法について、次項より解説します。
脳性麻痺による筋緊張を緩和するために、主に以下のような投薬治療があります。
これらの投薬治療は、脳性麻痺を完治させるわけではありません。
また、筋緊張が緩和したら、身体を動かして筋肉や関節等の可動域を広げるように努めましょう。
脳性麻痺による筋緊張を軽減するために、持続的な方法として手術を行うことがあります。
主に、以下のような手術を行います。
脳性麻痺の後遺症があっても、なるべく社会でできることを増やせるようにリハビリが行われます。 主なリハビリは以下のとおりです。
理学療法:生活するために必要な運動能力を回復し、維持するようにしていきます
作業療法:衣服の着脱や身体を洗う等、日常生活で必要な動作ができるようにしていきます
言語療法:口から物を食べることや、はっきりと話すことができるようにしていきます
他にも、適切な補助具を使用して、自分でできることを増やせるようにしていきます。
ただし、無理をさせると筋肉や関節を痛めたり、本人の自信を失わせて事態が悪化したりするリスクがあるため、必ず専門家の指導を受けるようにしましょう。
また、脳性麻痺ではない疾患の影響も考えられるため、脳性麻痺であることの診断は受けなければなりません。
脳性麻痺になった人が受けられるサービスや補償が設けられています。
主なサービス等として、以下のようなものがあります。
障害者総合支援法
自立支援給付
地域生活支援事業
児童福祉法
産科医療補償制度
準備一時金(看護・介護を行うための基盤整備のための資金)
補償の対象として認定されると600万円が一括で支給されます。
補償分割金(看護・介護費用として毎年定期的に支給)
総額2400万円が、基本的に毎年120万円を20回払いで給付されます。
ただし、1歳になってから補償の対象として認定されると2回分、2歳になってから認定されると3回分はまとめて支給される等、認定が遅れた場合には複数回分の支給を受けられます。

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