赤ちゃんのヘルペスとは?新生児ヘルペスの症状・原因・リスクについて

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

赤ちゃんには、様々な感染症のリスクがあります。

そして、感染のリスクが知られていて、もしも感染してしまったら、すぐに対応しなければならないものに「新生児ヘルペス」があります。

ヘルペスは、世界的にありふれた感染症であり、大人が感染しても自然に治ることが多いです。
しかし、赤ちゃんが感染すると後遺症や死亡のリスクを伴うことから、すぐに治療を行わなければなりません。

この記事では、赤ちゃんのヘルペスについて、症状や原因、重症化した場合のリスク、治療方法等について解説します。

赤ちゃんのヘルペスとは?

新生児ヘルペスとは、赤ちゃんが単純ヘルペスウイルスに感染することによって発症する疾患です。
特に、生後3週間以内の赤ちゃんが発症しやすいです。

母親がヘルペスに感染していると、赤ちゃんも感染してしまうおそれがありますが、ヘルペスはありふれた感染症であり治療薬もあります。

ただし、新生児ヘルペスは重症化するおそれがあるため、早期の診断や治療が必要となります。

新生児ヘルペスの症状

新生児ヘルペスの症状として、主に以下のようなものが挙げられます。

全身型 全身型の新生児ヘルペスでは、赤ちゃんが発熱したり、元気がなくなったりします。
また、重症になると、肝不全や呼吸障害を起こします。治療を行わないと70~80%が死亡すると言われています。

中枢神経型 中枢神経型の新生児ヘルペスでは、赤ちゃんの落ち着きがなくなってけいれんしたり、意識が低下して昏睡状態になったりします。
また、脳炎等の後遺症が発生するおそれもあります。

表在型 表在型の新生児ヘルペスでは、皮膚や口の周辺等に水ぶくれができたり、発熱したりします。

新生児ヘルペスとなる原因

赤ちゃんが単純ヘルペスウイルスに感染する原因は、主に感染している母親の産道を通ることです。
他にも、胎内で感染するケースや、生まれてから感染している親との接触などによって感染するケース等もあります。

また、病院の職員や、見舞いにきた家族等との接触によって感染してしまうことも考えられます。

赤ちゃんが可愛いのでキスしてしまう方もいますが、ヘルペスだけでなく、他の感染症をうつしてしまうリスクもあるので、なるべく控えるようにしましょう。

新生児ヘルペスの感染経路

新生児ヘルペスの感染経路は、主に分娩時の産道における感染であり、80%程度の割合となっています。
また、胎内における感染が5%程度、出産後に家族等との接触によって感染するのが10%程度です。

赤ちゃんに感染するリスクを抑えるために、妊娠中であっても母親のヘルペスに対する治療が行われます。
妊娠初期であれば、主に軟膏やクリームが用いられますが、妊娠中期以降では内服薬を用いることもあります。

産道での感染を防ぐために、帝王切開による出産となることもあります。

新生児ヘルペスが重傷化した場合のリスク

新生児ヘルペスは、ウイルスが全身の臓器に拡がってしまうと、肝機能障害や呼吸障害などを引き起こします。
また、ウィルスが中枢神経に達すると、脳炎を引き起こして後遺症のリスクを生じさせます。

そして、症状が進行すると死亡のリスクがあります。

後遺症のリスク

新生児ヘルペスは、原因となる単純ヘルペスウイルスが脳や神経にまで広がってしまうと、けいれんを起こして、脳性麻痺などの後遺症を引き起こすおそれがあります。

死亡のリスク

新生児ヘルペスは、産後2週間以内に急激に進行するおそれがあります。
症状が進行しても適切な治療を行わなければ、70~80%程度の確率で死に至ると言われています。

なるべく早く治療する必要があり、早ければ早いほど死亡するリスクは下がります。
ただし、適切な治療を行っても、後遺症が残るおそれがあります。

そのため、ヘルペスウイルスに感染させないように注意しなければなりません。

新生児ヘルペスの治療方法

新生児ヘルペスを治療するためには、ヘルペスウイルスに効果のある抗ウイルス薬を投与します。

また、症状が悪化しないように、水疱を保護して触らせないようにすることや、清潔な環境を整えるように注意しましょう。

妊娠や出産の前に、母親がヘルペスを発症している場合には、治療を行うことが重要です。

大人であれば軽症である場合が多く、自然に治るため放置してしまうかもしれませんが、赤ちゃんにとっては危険な病気なので、出産前にできるだけのことはしておくことが望ましいでしょう。

赤ちゃんのヘルペスに関する医療過誤の裁判例

赤ちゃんのヘルペスについて争われた裁判例について、以下で解説します。

【事件番号 平16(ネ)86号、名古屋高等裁判所 平成18年1月30日判決】
本件は、赤ちゃんが入院したときに、単純ヘルペスウイルス脳炎を疑うべき症状があったにもかかわらず、抗ウイルス薬を投与せず、赤ちゃんには労働能力を完全に失う後遺症が残った事案です。

裁判所は、当時の医療水準に基づき、抗ウイルス薬を投与する以下の4条件について検討しました。

  • ①臨床症状
    赤ちゃんに右肩のピクツキ等があり、単純ヘルペス脳炎に関連した神経症状と見るべきで、狭い範囲に限定された痙攣だと診断できたとしました。
  • ②脳波検査
    赤ちゃんの脳波には、事後的な評価として単純ヘルペス脳炎を疑わせる所見が存在しており、脳波検査をした当日に判読していれば、疑う端緒の1つになったとしました。
  • ③CT検査
    赤ちゃんの検査結果は正常でしたが、単純ヘルペス脳炎のCT所見は発病後数日してから明らかになることが多いため、検査結果を重視することは相当でないとしました。
  • ④髄液検査
    赤ちゃんの髄液検査によって、ウイルス性髄膜炎が強く疑われる結果となっており、当時は各種ウイルスのなかで治療薬があるのは唯一ヘルペスウイルスだったため、単純ヘルペスウイルス脳炎の疑いについて、十分に注意する必要があったとしました。

以上の検討から、病院側の医師には、単純ヘルペスウイルス脳炎を疑わず、抗ウイルス薬を使用しなかった注意義務違反があると認めました。

さらに、抗ウイルス薬による早期治療さえ行うことができれば、後遺症を残すことなく回復する蓋然性があったとして、医師の注意義務違反と後遺症との因果関係を認めました。

そして、赤ちゃんの逸失利益や将来の介護料、弁護士費用等、合計約1億円の損害を認定し、このうち請求額である1億円を認容しました。

弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 医学博士 弁護士 金﨑 浩之
監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)
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