監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
陣痛促進剤は、陣痛を強くして出産を促すための薬です。薬で出産するというのは、抵抗のある方もいるかもしれませんが、適切に使用すれば問題のない薬です。
ただし、定められた量よりも多く投与する等、誤った使い方をすると母子に危険を及ぼすおそれがあります。この記事では、陣痛促進剤の種類や効果、必要となるケース、赤ちゃんへの影響等について解説します。
目次
陣痛促進剤とは、子宮の収縮を促して陣痛を強くする薬です。妊婦の陣痛をコントロールして、安全な出産に導くために用いられます。
陣痛促進剤と似た薬で陣痛誘発剤もありますが、それぞれ以下のような違いがあります。
陣痛促進剤
自然に陣痛が始まったが、弱まって出産が進まない等の理由で、陣痛を強くするために用いられる
陣痛誘発剤
まだ陣痛が始まっていないときに、人工的に陣痛を誘発するために用いられる
陣痛促進剤も陣痛誘発剤も、呼び方が異なるだけで、基本的には同じ薬を用います。使用するときには、母子それぞれの状態や、出産の進み具合等から、医師の判断によって投与されます。
陣痛促進剤には、主に以下の2種類があります。
オキシトシン
主に点滴によって投与する薬品に用いられており、出産時の陣痛を強くする効果があります。
プロスタグランジン
主に点滴や錠剤によって投与する薬品に用いられており、オキシトシンよりも緩やかに陣痛を強くします。子宮の出口を柔らかくする効果もあります。
これらの陣痛促進剤は、元々母親が出産等のために分泌するホルモンであり、本来的には危険な物ではありません。ただし、これらを併用する等、誤った使い方をすると母子を危険に晒すおそれがあります。
陣痛促進剤が必要となるケースとして、主に以下のようなものが挙げられます。
陣痛促進剤は、母親の身体で生み出されているホルモンと同様のものを投与するため、使い方が正しければ安全性は高いと考えられます。ただし、以下のようなリスクを伴います。
これらのリスクについて、次項より解説します。
陣痛促進剤で最も知られている副作用が過強陣痛です。過強陣痛とは、陣痛が強くなりすぎることであり、母親にもお腹の中の赤ちゃんにも大きな負担がかかります。
母親には、痛みや疲労、吐き気といった症状を引き起こすおそれがあります。酷くなると、子宮破裂や常位胎盤早期剥離といった疾患を発症するリスクもあります。また、薬の投与によって、以下のような症状が発生するケースもあります。
過強陣痛は、お腹の中の赤ちゃんに以下のようなリスクを及ぼします。
重度の胎児機能不全になった赤ちゃんは、脳性麻痺などの障害を負ってしまうおそれがあります。最悪の場合には、胎児死亡に至ることもあります。
陣痛促進剤で医療ミスが疑われる場合として、薬の添付文書(能書)やガイドラインに従わず、大量に投与したケース等が挙げられます。
ガイドラインとは、現在考えられる最良の治療法をまとめた資料であり、国民に良質で安全な医療を提供するために作成されます。
病院側のミスを疑うことのできる場合として、陣痛促進剤が投与された後で異常な痛みがあったことや、分娩監視装置が装着されていなかったこと等が挙げられます。
医療ミスを疑っている場合には、医療問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。
陣痛促進剤の投与について、医療過誤が認められた裁判例を以下でご紹介します。
【事件番号 平23(ワ)5927号、名古屋地方裁判所 平成26年9月5日判決】
本件は、陣痛が起こる前に破水してしまった妊婦に対してプロスタグランジンが投与されたところ、生まれた赤ちゃんは自発呼吸がない等の状態に陥っており、脳性麻痺による体幹機能障害によって身体障害等級二級の認定を受けた事案です。
この事案では、主に分娩監視について、以下の時点での注意義務違反の有無等が争点になりました。
裁判所は、14時過ぎに、胎児の心拍数が4分間以上も増加する「遷延一過性頻脈」があったことについて、一過性頻脈は通常であれば胎児の生理的反応が維持されている状態を意味すること等から、医師に陣痛促進剤の投与を注意する注意義務があったとは認めませんでした。
また、15時13分の前から、赤ちゃんの低酸素状態を疑わせる「遅発一過性徐脈」や「変動一過性徐脈」があったこと等について、胎児機能不全と診断するべきであったとはいえない旨などを判示しました。
しかし、15時40分頃からは、「遅発一過性徐脈」と評価できる除脈が複数回発生し、赤ちゃんの心拍数の細かなゆらぎである「基線細変動」の振幅の程度が明らかに減少しているため、遅くともこの時点では赤ちゃんの胎児機能不全を疑って陣痛促進剤の投与停止等を行うべきだったと指摘しました。
そして、15時45分頃には、すぐに出産させるための措置を取るべき注意義務があったと認めて、病院側の注意義務違反と赤ちゃんの脳性麻痺との因果関係を認定し、赤ちゃんの逸失利益や後遺障害慰謝料、弁護士費用等、合計約1億3675万円の請求を認容しました。

医療過誤のご相談受付
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