監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
赤ちゃんが酸素不足になると、脳に障害が起きてしまい、将来的に後遺症が残る可能性があります。不可抗力による場合もありますが、医療機関の対応が遅れたために低酸素性虚血性脳症となるケースも見られます。
低酸素性虚血性脳症は、赤ちゃんの命や成長に大きな影響を与える可能性があるため、早期発見と適切な治療が重要です。
この記事では、低酸素性虚血性脳症の原因・症状・後遺症・治療法・医療過誤の可能性について、わかりやすく解説します。
目次
低酸素性虚血性脳症とは、赤ちゃんの脳に十分な酸素が行き渡らなくなることで、脳の細胞が傷つき、障害が引き起こされる病気です。脳への血流が減少したり、血液中の酸素を運ぶ力が低下したりすることで起こります。
酸素が不足すると、脳の働きに深刻な影響を及ぼし、後遺症が残る可能性があります。
新生児が低酸素性虚血性脳症を発症する割合は、500人に1人程度、あるいは1000人に1人程度ともいわれており、決してまれな病気ではありません。
発症すると、重度の後遺症が残るリスクがあるほか、場合によっては命に関わるケースもあります。
赤ちゃんが酸素不足になる原因には、さまざまな出産時のトラブルや母体の状態が関係しています。代表的な原因としては、
などがあります。
これらの原因が重なることで、赤ちゃんの脳に十分な酸素が届かず、低酸素性虚血性脳症を発症するリスクが高まります。
赤ちゃんが低酸素性虚血性脳症を発症すると、出産直後からさまざまな異常が見られることがあります。代表的な症状としては、
などがあります。
症状の程度は個人差がありますが、重症の場合には命に関わることもあるため、出産後すぐに異常が見られた場合は、医師による迅速な診断と治療が重要です。NICU(新生児集中治療室)での管理が必要になるケースも少なくありません。
赤ちゃんが低酸素性虚血性脳症を発症すると、脳に深刻な障害が残る可能性があり、後遺症として脳性麻痺が生じるケースが多く見られます。
脳性麻痺は、脳の運動機能をつかさどる部分に損傷が起きることで、体の動きや姿勢のコントロールが難しくなる状態です。重症の場合には、命に関わることもあり、死亡するリスクも否定できません。
脳性麻痺が残った赤ちゃんは、歩いたりする運動の発達が遅れたり、話す・理解するといった知的な面にも影響が出るケースがあります。
また、注意力が散漫になったり、こだわりが強くなるなど、行動面での特徴が見られることもあります。てんかんを発症したり、食事や呼吸に困難を抱えるケースも考えられます。
ただし、すべての赤ちゃんに重い後遺症が残るわけではありません。
適切な治療が早期に行われれば、赤ちゃんが健康に成長できる可能性も十分にあります。
赤ちゃんが低酸素性虚血性脳症となった場合には、酸素の投与や人工呼吸器の装着といった処置を行います。また、薬剤を投与するケースもあります。
さらに、脳症が中等症または重症である場合には、低体温療法が行われることがあります。
低体温療法とは、体温を下げることによって脳のダメージを抑える治療法です。NICUで行われ、効果が実証されていますが、この治療を行っても半分程度の赤ちゃんには重い後遺症が残ってしまいます。
なお、新しい治療法として、自己臍帯血幹細胞治療が研究されています。これは、赤ちゃんのへその緒から採取した臍帯血から、造血幹細胞を分離して投与する治療法です。自分の細胞なので拒絶反応が少ない点がメリットとして挙げられます。
赤ちゃんに対して行われる低体温療法とは、脳へのダメージを軽減するために体温を一時的に下げる治療法です。一般的には、生後6時間以内に体を冷やし始め、体温を約34℃に保った状態で72時間冷却を続けた後、ゆっくりと元の体温に戻していきます。
この治療は、低酸素性虚血性脳症が中等症または重症と診断された赤ちゃんに対して行われます。実施には条件があり、妊娠36週以上で出生体重が1800g以上であることが必要です。
低体温療法は、効果と安全性が医学的に確認されている治療法ですが、それでも約半数の赤ちゃんには重い後遺症が残る可能性があるとされています。
赤ちゃんが低酸素性虚血性脳症を発症した場合、その原因が医療機関の対応の不備による可能性もあるでしょう。
医療過誤が疑われるケースとして、主に以下のようなものがあります。
医療機関の過失が認められれば、慰謝料や将来の介護費用などが請求できる可能性があります。まずは、専門の弁護士に相談することが重要です。
低酸素性虚血性脳症により脳性麻痺となった赤ちゃんに関する裁判例について、以下で解説します。
昭和62年(ワ)1877号 東京地方裁判所 平成5年3月22日判決
本件は、常位胎盤早期剝離により胎児仮死となった赤ちゃんが、低酸素性虚血性脳症によって脳性麻痺となり、重度の障害が残って労働能力を完全に失い、回復の見込みもない状態になってしまった事案です。
裁判所は、出産にあたって赤ちゃんの高度徐脈が生じた後に、被告医療センターの医師や助産師が分娩監視装置を注意深く観察する義務を怠ったことから、適切な観察を怠った過失があると指摘しました。
また、赤ちゃんは分娩中に発生した常位胎盤早期剥離によって胎児仮死になったと推認されるので、被告医療センターの助産師が分娩監視装置により適切な観察を行っていれば、胎児仮死や新生児仮死を予見または発見できたと認めました。
助産師が胎児仮死や新生児仮死を予見できれば、急速遂娩の措置や蘇生術によって重篤な低酸素性虚血性脳症の発症を防止できた蓋然性はかなり高かったとして、裁判所は助産師の過失と赤ちゃんの脳性麻痺との因果関係を認定しました。
以上のことから、裁判所は逸失利益や介護料、慰謝料として、およそ6600万円の請求を認容しました。

医療過誤のご相談受付
まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。
※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。