乳がんと医療過誤|損害賠償が認められるための条件

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

乳がんは日本人女性が罹るがんの中で最も多く、また男性に発症することもあります。

「良性の腫瘍を乳がんと誤診し、手術で乳房を切除された」
「検診で乳がんが見落とされて亡くなってしまった」
など、乳がんでは誤診や見落としによる医療過誤を問われることが多いです。

誤診や見落としによって後遺障害が残る、死亡に至るなどの損害が生じた場合、医療行為に過失が認められると医療機関に対して損害賠償請求をすることができます。

今回は、早期発見して適切に治療すれば治る可能性の高い乳がんの医療過誤に着目して、損害賠償請求が認められるための条件を解説していきます。

乳がんで起こり得る医療過誤とは

乳がんは早期に発見・治療ができれば治る可能性の高い疾患ですが、誤診見落としなどによって後遺障害が残ったり、死亡に至ったりする医療過誤が起こり得る可能性があります。

乳がんの医療過誤として代表的なケースは次のとおりです。

  • 良性腫瘍を乳がんと誤診し、乳房切除や抗がん剤投与によって後遺障害が残った
  • 検診で乳がんが見落とされ、診断が遅れたことで死亡に至った
  • 検体や患者の取り違えによって、必要のない治療や手術が行われた
    または、必要な治療や手術が遅れて死亡に至った
  • 手術ミスで、乳がんと診断された乳房とは反対の乳房が誤って切除された など

乳がんの誤診・見落としが起こる要因

乳がんの誤診や見落としが起こる要因としては、次のようなものが考えられます。

  • 適時・適切な検査が行われなかった
  • 画像診断などの検査結果を適切に読み取れなかった
  • 内科医・外科医と画像診断医、病理医の連携不足 など

自覚症状がある場合や検診等で乳がんが疑われると、診断を確定するために病理検査が行われ、乳がんと確定診断されると、がんの進行度合や治療方針を決定するための画像検査が行われます。

こうした検査の過程で誤診や見落としが起こる可能性は、残念ながらゼロではありません。

乳がんの検査

乳がんを見つける検査
  • 視触診
  • マンモグラフィ(乳房X線撮影検査)
  • 超音波検査(エコー検査)
乳がんを確定する検査
  • 細胞診
  • 組織診(針生検)
乳がんの広がりを調べる検査
  • MRI検査
  • CT検査
  • PET検査

乳がんの医療過誤で損害賠償請求は認められるのか?

乳がんの医療過誤が疑われる場合、誤診や見落としなどに対して医療機関側に過失があれば損害賠償請求が認められます。

乳がんの医療過誤で損害賠償請求をする場合、命を救うことはもちろんですが、乳房を温存できるかどうかによって精神的苦痛に差が生じると考えられています。

そのため、誤診や検体の取り違えなどにより本来必要のない切除・摘出が行われたケースでは、乳房を温存できなかった精神的苦痛に対して慰謝料が認められることが多いです。

過去には、医師が良性の腫瘍を乳がんと誤診して乳房の切除手術を行った過失が認められ、約3200万円の損害賠償請求が認められた裁判例もあります。

損害賠償請求の流れと弁護士ができること

医療過誤で損害賠償請求をする場合は、法律相談➡医療調査➡請求(示談交渉、調停・ADR、訴訟)という流れで解決を目指すのが一般的な流れです。
こうした手続きのなかで弁護士ができることは次のとおりです。

  • 医療調査
  • 示談交渉
  • 調停およびADR手続き
  • 訴訟手続き
  • 証拠収集、証拠保全
  • 提示された損害賠償金が妥当かどうかのアドバイス など

下請けの検査会社によるミスである場合

検体の取り違えなど、下請けの検査会社によるミスの場合、病院や検査会社に対して損害賠償請求できる可能性があります。

検査会社のミスが医療過誤に繋がったとしても、医師や病院が患者との診療契約に基づく関係上、賠償責任を負うことは避けられず、検査会社も相応の賠償責任を負うと考えられます。

どちらがどのくらいの賠償責任を負担するのかは、医療過誤が起きた経緯や具体的な損害の内容、病院と検査会社との契約内容などによって変わります。

医療過誤で請求できる損害賠償項目

医療過誤で請求できる損害賠償項目は事案により異なりますが、一般的なものは次のとおりです。

積極損害:医療過誤が原因で実際に支出を強いられた費用

  • 治療費
  • 通院交通費
  • 付添費
  • 入院雑費
  • 介護費用
  • 葬儀費用 など

消極損害:医療過誤が起きなければ将来得られるはずだった利益

  • 休業損害
  • 後遺障害逸失利益
  • 死亡逸失利益

慰謝料:医療過誤によって受けた精神的苦痛に対する補償

  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 死亡慰謝料

医療過誤と判断された判例のなかには、乳房の切除手術によって肩関節の可動域が制限される後遺症が生じたことによる後遺障害慰謝料・逸失利益が認められたケースもあります。

誤診により乳房切除術を施術した病院側の過失が認められた判例(平14(ワ)1312号・名古屋地方裁判所 平成15年11月26日判決)

医師が乳腺腫瘍を乳がんと誤診して乳房温存手術を行ったことにつき、生検を行うことなくがんと最終診断した点に注意義務違反があるとして、病院側に250万円の慰謝料の支払いが命じられた事例です。

病院側の過失

裁判所は以下の点から病院側の過失を認めました。

  • ① 被告病院で左乳腺腫瘍を乳がんと診断されて乳房温存療法を受けたところ、手術後に良性の線維腺腫であることが判明したことにつき、被告病院の医師が生検を行わず、大学の専門医の「がんです。」との回答を根拠に乳がんと最終診断した注意義務違反があった。
  • ② 以下の事情を併せて考慮すれば、大学の専門医の診断を鵜呑みにすることなく誤診である可能性を疑い、より慎重に良性か悪性かを鑑別するために生検を行うべき注意義務があった。
  • 乳房撮影では典型的な悪性所見がなかったこと
  • 乳腺エコー検査でも積極的に悪性を疑わせる所見は認められなかったこと
  • 医師が線維腺腫を相当強く疑っていたこと
  • 大学の専門医の、がんとの診断を予想外に感じたこと
  • 細胞診における誤診の可能性を認識していたこと
  • 判定医は疑陽性と診断しながらも良性の可能性がより高いと考えており、医師もその判断を認識し得たこと

因果関係

裁判所は、乳房温存療法といえども乳房を一部切除する手術を行うことは、がんの告知を受けた際のショックや不安、手術による外観上の変貌および肉体的苦痛によって、患者が相当な精神的苦痛を被ったと認めました。

そして、医師が注意義務を尽くして生検を行っていれば、乳がんと誤診されて手術を受けることはなかったため、患者の精神的苦痛による損害は医師の過失によるものとして、慰謝料として250万円の請求を認めました。

乳がんの医療過誤で損害賠償が認められるための条件

乳がんの医療過誤で損害賠償請求が認められるためには、「医療機関側に医療過誤があったこと=過失」と「その過失がなければ患者側に損害が生じていなかったこと=因果関係」を証明する必要があります。

乳がんの誤診や見落としなど、医療過誤の被害に遭ったからといって、必ずしも損害賠償請求が認められるわけではありません。

①医療機関側の過失の有無

医療機関に過失があったかどうかは、医師が本来負うべき注意義務を果たしていたかを基準として判断されます。

具体的には、医療行為が行われた当時の医療水準に照らして、そのリスクを予測できたにもかかわらず(予見可能性)、適切な対応を取らなかった(回避義務違反)と評価できる場合に、医療機関側の過失が認められます。

予見可能性 注意すれば特定の出来事が発生することを予測・予見できたという可能性
回避義務違反 特定の出来事が発生しないように回避できる可能性があったにもかかわらず、その回避を怠ったこと

確定診断における注意義務違反

乳がん手術によって乳房の一部または全部を失うことは、患者に対して身体的障害だけでなく、精神面・心理面へ著しい影響をもたらすことから、医療機関側は乳がんの確定診断において注意義務を負っています

そのため、乳がんの診断において注意義務違反があれば医療機関側の過失が認められます。

乳がんの確定診断における注意義務違反となり得るケース

  • 速やかに細胞診などの精密検査を実施すべきだったのに、それを怠った
  • 良性の可能性があるにもかかわらず、必要な検査を十分に行わなかった
  • 良性の可能性を疑う余地がないかのような判定をし、最終診断に決定的な影響を与えた
  • 乳がんの進行を回避するために必要な措置を怠った など

説明義務違反

医師は患者が納得して自主的な治療方法を選択できるよう、以下の4つの説明義務を負います。

  • ① 患者の知る権利・説明を受ける権利に対応した説明義務
  • ② 患者の同意を得るための説明義務
  • ③ 患者に選択させるための説明義務
  • ④ 「悪しき結果」を避けるための説明義務

医師の説明義務は、「インフォームド・コンセント」という概念と密接な関係があり、医師から十分な説明を受け、患者や家族がその内容を理解したうえで最終的な選択をしたかによって医療機関側の過失が判断されます。

患者や家族に対して説明義務違反があれば、医療機関側の過失が認められます。

過去には、当時医療水準として未確立の治療法であっても医師の知る範囲で説明義務が生じるとして、乳房温存療法を希望していた患者に対し、医師が乳房温存療法の適応可能性や実施医療機関等の十分な説明を行わないまま切除手術を行ったとして説明義務違反が認められた判例があります。

乳がんの治療において説明義務違反となり得るケース

  • 不安を煽るなどして、心理的に熟慮する機会を与えなかった
  • 選択可能な他の治療について説明が不十分だった
  • 有効性や安全性等の観点から選択肢に入らない治療方法だからと、他の治療方法や適応可能性を伝えなかった など

②過失と損害の因果関係の有無

医療機関に過失があり、その過失が原因となって患者に後遺障害や死亡といった損害が生じたと認められる場合、損害賠償請求が可能です。

乳がんの医療過誤で因果関係が問題となるときは、確定診断における注意義務違反や説明義務違反などの過失がなければ、患者が助かった可能性が高かったか、または後遺障害が残らずに済んだ可能性が高かったかが判断基準になります。

もっとも、医療機関側の過失によって患者が死亡したり、重大な後遺障害が残ったりした事案では、因果関係の立証が軽減される可能性もあります。

乳がんの医療過誤でお困りなら、医療問題に特化した弁護士にご相談ください。

日本人女性にとって身近な乳がんは、他のがんに比べると死亡率は低いものの、検査や診断の遅れによってがんが転移したり、死亡に至ったりする危険性があります。

乳がんの誤診や見落としなど、医療過誤が疑われる場合には、医療問題に詳しい弁護士への相談をおすすめします。

医療過誤で損害賠償請求をする場合、医療の専門知識が不可欠です。
弁護士であれば、代理人として損害賠償請求を行えるだけでなく、医療機関に対してカルテの開示請求や、医療調査、証拠保全を迅速に行うこともできます。

弁護士法人ALGには、医学博士の資格を持つ弁護士を筆頭に、医療問題に精通した弁護士が複数名在籍しています。乳がんの医療過誤についてお困りの方はぜひ一度私たちにご相談ください。

弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 医学博士 弁護士 金﨑 浩之
監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)
東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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