監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
投薬や手術といった治療行為は、他者の身体を侵襲する側面がある以上、外形的には傷害罪に該当する行為である、と考えるのが通説です。
医師が治療行為を行っても処罰されませんが、その理由を法的に説明すると、刑法35条に「正当な業務による行為は、罰しない」と定められており、この条文によって正当化されるからです。
正当化されるための条件としては、治療目的であること、医学上の法則に従うこと、患者の同意があることが挙げられています。
本ページのテーマである、専断的治療行為とは、患者の意思に反する治療行為を指します。
例えば、乳癌患者が「死んでも構わないので、手術は受けたくない」と明示している状況下で医師が適切な手術を行う場合が、これに当たります。
自己決定が尊重されている現在では、専断的治療行為は、刑法35条では正当化されず傷害罪が成立する、と考えるのが一般的です。
専断的治療行為が問題となった民事の裁判例があるので、紹介します。
【東京地方裁判所 昭和46年5月19日判決】
事実の概要は、右乳房内部の腫瘍が乳腺癌であると判明した患者に対し、医師は、右乳房の内部組織を全て剔出する手術を実施したところ、同術中、対側の左乳房内部の腫瘍の一部を剔出して検査を行うと、乳腺症と判明したため、医師は、将来癌化するおそれがあると判断し、患者から同意を得ることなく、左乳房についても内部組織を全て剔出した、というものです。なお、現在では、乳腺症は癌化しないとされていますが、その当時は、癌化するのかどうか見解が分かれていました。
裁判所は、まず、一般論として、「医師が行なう手術は、疾患の治療ないし健康の維持、増進を目的とするものではあるが、通常患者の身体の一部に損傷を生ぜしめるものであるばかりでなく、患者に肉体的な苦痛を与えることも少なくないのであるから、・・・少くとも・・・身体の機能上または外観上極めて重大な結果を生ずる手術を実施するにあたつては、・・・患者の生命の危険がさしせまつていて承諾を求める時間的余裕のない場合等の特別の事情がある場合を除いては、医師はその手術につき患者が承諾するかどうかを確認すべきであ」ると述べました。
その上で、本件について、乳房の内部組織を全部剔出する手術がもたらす生理的機能及び外見への影響が重大であること、及び、乳腺症に対する手術の要否についての見解が分かれていること等を考慮し、医師としては、十分説明した上で承諾を得て手術をなすべきであったとして、患者の身体に対する違法な侵害であったと判断し、慰謝料150万円の支払を命じました。
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