監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)は、飛行機・列車・車での長時間移動や、災害後の避難所生活や車中泊などで発症し得るエコノミークラス症候群という名称で広く認知されています。
長時間同じ姿勢を続けることで発症のリスクが高まることから、長期入院や手術後においても起こる危険性があります。
肺血栓塞栓症は死亡率が高い疾患のひとつですが、医療過誤によって死亡に至ることもあり、裁判例も多数存在しています。
この記事では、肺血栓塞栓症で医療過誤があった場合の損害賠償請求について、過去の裁判例を踏まえながら過失の判断基準を解説していきます。
目次
肺血栓塞栓症について、医療過誤が起こり得るのは、予防の段階・診断の段階・治療の段階の3つのケースが考えられます。
肺血栓塞栓症で医療過誤の疑いがある場合、不法行為または債務不履行に基づき、医療機関へ損害賠償を求めることができます。
過去には、急性肺血栓塞栓症を疑わずに死亡させたとして、逸失利益を含む約5000万円の損害賠償を認めた判例もあります。
損害賠償の請求方法・流れ
医療過誤で損害賠償を請求する場合、示談交渉、調停・ADR、訴訟といった方法があります。
いずれも専門的な知識が必要になることから、まずは弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士への相談から解決までの一般的な流れは次のとおりです。
弁護士ができること
医療過誤の損害賠償請求について、弁護士ができることは次のとおりです。
事案の概要
脳内出血のため入院治療を受けていた患者(死亡当時76歳)が、入院中に肺血栓塞栓症を発症して死亡したことについて、患者の相続人らが、担当医師において深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症に関する検査および治療を怠った注意義務違反があると主張し、医療機関に対して不法行為および債務不履行に基づき損害賠償を求めた事案です。
裁判所の判断
死因が肺血栓塞栓症であることを踏まえ、入院後に呼吸苦や右下肢の痛みなど深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症を疑わせる症状が現れていたことから、Dダイマー検査や造影CT検査等が行われており、未分画ヘパリンが早期に投与されていれば死亡の結果は回避できたとの高度の蓋然性が認められると判断し、検査および治療の義務違反と死亡との間には因果関係があるとして、医療機関に対して使用者責任による損害賠償義務を認めました。
肺血栓塞栓症とは、肺の血管(肺動脈)に血のかたまり(血栓)が詰まるために起こる、死亡率の高い疾患です。
突然の激しい息切れ、呼吸困難、胸の痛みが代表的で、冷や汗、動悸、意識消失などを伴うこともあります。
長時間同じ姿勢をとった後、足のむくみや痛み、急な呼吸困難といった症状が現れた場合には、急性肺血栓塞栓症の疑いがあります。
飛行機での長距離移動の際に、長時間同じ姿勢をとることなどが原因で足の血流が悪くなり起こることからエコノミークラス症候群とも呼ばれますが、長期入院中や手術中・手術後、出産後に発症するケースもあります。
肺血栓塞栓症の原因の多くは、太ももやふくらはぎの静脈内に血栓ができ(深部静脈血栓症)、何らかの拍子に足の血栓が剥がれて血流に乗って肺に到達し、肺動脈に詰まることで発症します。
飛行機のように狭い席で長時間足を動かさずに座り続けたり、長距離運転で同じ姿勢を保ち続けたりすると、発症しやすいとされています。
次のような人も血栓が生じやすく、肺血栓塞栓症を引き起こす可能性があります。
肺血栓塞栓症を発症しやすい人
肺血栓塞栓症に特異的な症状はありませんが、呼吸困難や胸痛、背部痛などの主要症状がみられる場合は、次のような方法で診断が行われます。
肺血栓塞栓症は下肢の血管に血栓ができないようにしなければならず、予防策は次のとおりです。
予防策
| 日常生活のなかで 行える予防策 |
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|---|---|
| 医師の指示で 実施される予防策 |
|
肺血栓塞栓症の治療は、次のような治療法を組み合わせて行われます。
治療法
医療過誤における「過失」とは、医療機関側が負う法的な注意義務に違反したことを意味します。
注意義務違反があったかどうかは、当時の医療水準に照らして、どこまで結果を予測できたか、また、どこまで結果を避けることができたかという観点から判断されます。
ここで重要となるのが、次の2つの要素です。
これらの可能性があったのに、必要な対応を取らなかった場合、医療機関側の過失が認められることになります。
肺血栓塞栓症における注意義務違反の有無は、予防・治療ガイドラインに基づいて、肺血栓塞栓症の発症リスクを把握・予見することができ(予見可能性)、適切な予防措置や診断、治療、救命措置によって回避することが可能であったにもかかわらず(回避可能性)、これらの注意義務を怠ったと言えるかどうかで判断されます。
肺血栓塞栓症で医療過誤の過失を判断するにあたり、死因・急変の原因が肺血栓塞栓症であることが前提となります。
死因・急変の原因が肺血栓塞栓症でなければ、過失と結果との因果関係は否定されます。
それだけでなく、肺血栓塞栓症を前提とした予防措置を義務付ける意味もなくなるため、損害賠償の請求は認められなくなります。
肺血栓塞栓症の予防措置が不適切だったかどうかが争点となった場合、肺血栓塞栓症やその原因となり得る深部静脈血栓症に関する予防・治療ガイドラインを基準に過失の有無が判断されます。
予防・治療ガイドラインは、エビデンスに基づいて診断や治療等の現時点での推奨度を示した文書で、必ず順守すべきものではありませんが、裁判所が医師の過失の有無を判断する際に用いられます。
実際に、死因が肺血栓塞栓症による急性呼吸不全であると認定したうえで、肺血栓塞栓症が生じる危険性が高いことを予見することが可能だったにもかかわらずガイドラインで推奨される弾性ストッキングないし弾性包帯の着用を怠った過失があると判断された裁判例もあります。
肺血栓塞栓症の診断や治療の遅れが争点となった場合、予防・治療ガイドラインを基準に過失の有無が判断されます。
裁判では、帝王切開後に肺血栓塞栓症を発症し死亡したことについて、患者の左下肢のみに浮腫を発見した時点で深部静脈血栓症の発症を疑い、必要な措置をとるべき注意義務を怠ったとして、医師の過失を認めたケースもあります。
肺血栓塞栓症と診断された後の救命措置が不適切だったかどうかが争点となった場合、予防・治療ガイドラインを基準に過失の有無が判断されます。
裁判では、慢性肺血栓塞栓症の急性増悪期と診断され、抗凝固療法に加えて、血栓溶解療法を受けた患者が脳内出血により死亡したことについて、治療の効果と出血のリスクを慎重に評価した事実が認められず、対応がガイドラインに反しているとして、医師の診断および療法に過失を認めたケースがあります。
肺血栓塞栓症で医療過誤があった場合、損害賠償請求が認められるためには、過失と損害との間に因果関係が存在していなければなりません。
「予防措置・診断・治療に関して予見義務違反や回避義務違反などの過失がなければ、患者側に後遺障害や死亡などの損害が生じなかった」という因果関係は、ガイドラインに基づいて判断されるのが一般的です。
患者側は、「医療過誤がなければ生存し得た(または後遺障害が残らなかった)」ことを、高度な蓋然性をもって証明する必要があり、因果関係が否定されると損害賠償請求が認められない可能性もあるため、注意が必要です。
肺血栓塞栓症は医療訴訟などのトラブルに発展しやすい疾患のひとつです。
肺血栓塞栓症の医療過誤でお悩みの方、医療機関に対して損害賠償請求を検討されている方は弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士法人ALGには、医療事件のみを取り扱う弁護士が在籍しており、協力医とのネットワークを活かして、患者様の立場で数々の医療過誤案件を解決してきました。
医療過誤の被害に遭われた方に寄り添い、親身に対応いたします。
「予防措置や診断、治療が不適切だったから後遺障害が残った・亡くなってしまったのでは…」と肺血栓塞栓症に関する医療過誤でお悩みの方は一度私たちまでご相談ください。

医療過誤のご相談受付
まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います。
※精神科、歯科、美容外科のご相談は受け付けておりません。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。